臨床倫理指針について
基本的人権や患者の権利、医の倫理に基づき、患者にとって最良の医療を適切かつ十分に提供することを目的とし、臨床倫理に係る方針を定めます。
臨床倫理の原則
- 全人的観点から患者さんにとって最善の医療を提供します。
次の点に配慮し、治療方針の決定にあたります。- 患者さんの病歴・病状・診断・予後等を勘案した医学的適切性
- 患者さんの生活の質(QOL)
- 生活環境・経済状況・宗教等の患者を取り巻く環境
- 「患者の知る権利」を満たした上で患者さんの意思を尊重します。
- 治療方針に関する正確かつ十分な説明を行った上で、患者さんの意思決定を尊重します。
- 患者さんに判断能力がない場合は、家族または代理人と十分に話し合った上で治療方針を決定します。
- 次の臨床倫理の原則を踏まえ、患者さんの意思決定の支援にあたります。
- 患者さんの意思だけでなく、気持ちや存在を含め、人間として尊重する(人間尊重)
- 全ての選択肢の中で、益と害を十分に比較検討し、最も益となるようにする(与益)
- 社会資源の配分や法規・制度・ガイドラインに照らして、適切性を重視する(社会的適切性)
- 守秘義務を遵守します。
- 個人情報に係る法規及び規定に基づき、診療の過程で取得する患者情報を漏らしません。
- 但し、患者情報の守秘によって第三者に不利益が生じる場合や公的機関からの正当な要請がある場合は、細心の注意を払った上で情報開示を行います。
- 倫理問題の解決には多職種または倫理委員会で検討します。
- 倫理的な問題が生じた場合は、多職種で話し合って対応を検討する。
- で解決が困難な場合は、倫理委員会に具申する。
- 医療の進歩に貢献する必要な臨床研究の実施の可否は倫理委員会で決定する。
代表的な臨床倫理問題への対応
- 有益な治療を拒否する患者さんへの対応
- 医師は治療によって生じる不利益と利益を明確に提示します。
- その上で、患者さんが治療を拒否する場合には、患者さんの意思が尊重され、治療の強要はいたしません。
- ただし、感染症等で第三者に危険が及ぶ可能性がある場合は、治療拒否が制限される場合があります。
- 自己判断が不能又は困難な患者さんの意思決定
- 家族等の適切な代理人がいる場合は、その代理人の推定意思を尊重し、患者さんにとっての最善の方針をとることを基本として同意を得るようにします。
- で適切な代理人がいない場合は、主治医及び多職種で検討し、患者さんにとって最善の方針をとることを基本とします。
- 未成年であっても、15歳以上で判断能力があると認められる場合は、本人の意思を尊重します。
- 宗教的輸血拒否に関する対応
当院では、相対的無輸血の方針に基づき、以下のように対応いたします。
- 輸血を行わないためのできる限りの努力はしますが、生命に危機が及び、輸血を行うことによって死亡の危険が回避できる可能性があると判断した場合には輸血を行います。この場合、輸血同意書が得られなくても輸血を行います。
- エホバの証人の方が提示される「免責証明書」など絶対的無輸血治療への同意文書には署名いたしません。
- 全ての手術において輸血の可能性があり、輸血拒否により手術の同意書が得られない場合であっても、救命のために緊急手術が必要な場合は手術、輸血療法を行います。
- 以上の方針は、患者さんの意識の有無、成年と未成年の別にかかわらず適用します。
- 自己決定が可能な患者さん、患者さんの保護者、又は代理人の方に対しては、当院の方針を十分に説明しご理解を得るよう努力しますが、どうしても同意が得られず、治療に時間的余裕がある場合は、他院での治療を勧めます。
- 蘇生不要(DNAR)指示
当院所定の説明同意書もしくは、同内容を病状説明書に記載し説明したうえで同意を得ます。
- 患者さんが意思表示できる間に、心肺蘇生術に対する希望を確認できた場合は、それを尊重します。
- 患者さんの意思確認が出来ない場合で、家族等の適切な代理人の推定意思が確認できる場合は、推定意思を尊重します。
- で、家族等の適切な代理人の推定意思が確認できない場合は、その代理人との話し合いで意見の一致があれば、それを尊重します。
- で、家族等の適切な代理人がいない場合は、多職種カンファレンスで検討し、患者さんにとって最善の治療方針をとることを基本とします。
- 人生の最終段階における医療
終末期の患者さんに対しては、関連ガイドライン・指針に基づいて診療・ケアの方針を決定します。
- 終末期であることを客観的な情報に基づいて判断します。
- 患者さん本人の意思を尊重しながら、患者・家族等の適切な代理人と多職種からなる診療チームとの十分な話し合いにより方針を決定します。
- 患者さん本人の意思が確認できない場合は、家族等の適切な代理人による推定意思を尊重し、多職種からなる診療チームとの十分な話し合いにより方針を決定します。
- 患者さん本人の意思または家族等の適切な代理人の意思決定が確認できない場合は、多職種からなる診療チームによる十分な話し合いにより方針を決定します。
- 如何なる場合においても、積極的安楽死や自殺幇助は認めません。
- がん告知
がん治療はここ最近、めざましく進歩し、様々な治療法が選択できるようになっています。患者さんには自身の病状について十分に説明を受けた上で、希望する治療法をえらぶ権利があります。希望される最良の医療を行っていくためには、患者さんと医療者との間でしっかりと情報を共有し、提供する医療を信頼していただき、協力して治療に臨むことが何より重要であると考えます。
このためには患者さん自身に告知することが必要であると考え、原則として、ご本人にその病名及び病状をお伝えすることとしています。もし、患者さんあるいはご家族に対して、どうしてもがん等の病名告知を希望されない場合には、担当者(医師・看護師)にお申し出ください。 告知を希望されない場合にも、担当者は全力をあげて患者さんの治療を行いますが、告知されないことにより、治療内容などに制限が生じる可能性もありますことをご理解願います。
- 患者さん本人に告知することを原則とします。
- の場合、患者さんの立場や背景を十分に配慮しながらお伝えします。
- 告知後は、患者さんの精神状態を深く配慮しながら、精神的苦痛を軽減できるよう多職種で関わっていきます。
- ただし、患者さん本人が告知を望まない場合には、家族等の適切な代理人による推定意思を尊重し、多職種からなる診療チームとの十分な話し合いにより方針を決定します。
- 身体的拘束
- 身体的拘束は、患者の生命・安全確保のために行う最終手段です。
- 常に切迫性・非代替性・一時性を検討した上で実施します。
- 切迫性(身体的拘束をしなければ生命にかかわる可能性がある)
- 非代替性(他に、代わる手段がない)
- 一時性(必要がなくなれば、速やかに解除する)
- 患者さんの生命・安全を確保する上で必要最小限度に実施します。
- 臨床研究
- 患者さんや患者情報を用いた臨床研究を行う場合は、倫理委員会に諮ります。
- 倫理委員会においては、患者さんの人権や個人情報保護、医の倫理等の観点から審議を行います。
- 成人年齢引き下げに伴う同意書の対象年齢について
令和4年4月1日より施行された改正民法にて、成年年齢が20歳から18歳へと変更されたことに伴い、当院は治療方針の決定などで、18歳以上は本人の同意があれば保護者を含めた家族の同意を不要とすることにする。
なお、『ご家族も十分に理解されている状況が望ましい』との方針に変更ないため、これまで通り可能な限りご家族(キーパーソン)同席の上、ご説明すること。 - その他
この指針について疑義がある時及びこの指針に定めのない倫理的課題については、法令等に基づいて対応するほか、倫理委員会において審議し、当院としての方針を定めるものとします。
関連文書
人生の最終段階における医療の決定プロセスに関するガイドライン(厚生労働省)
宗教上の理由による輸血拒否者への対応に関するガイドライン(宗教的輸血拒否に関する合同委員会)
人を対象とする医学系研究に関する倫理指針(文部科学省・厚生労働省)