今年4月から、レジデント(研修医を終えた3年目の医師)として、中国から劉先生が赴任しています。
南京大学(中国7位!)を卒業後、同地に留学に来ていた神戸のお嬢様と知り合い結婚し神戸大学医学大学院へ。医学博士号を所得し、日本で医師国家試験を突破したという、超スーパーエリートです。
ただ、初期研修病院に脳外科が無かったとのこと。また、日本語は流暢ですが、やはり中国訛りは残っています。
我々の職場は命に直接触れるセンシティブな側面を多く含みます。その時、彼の訛りが患者さんにネガティブな印象を与えなければよいが…、と心配しておりました。
最初の1か月。脳外科は「言わなくても分かるだろう」的スピードでチームを動かす必要があり、どうしても出遅れる場面が目立ちました。
プレゼン(患者さんの状態報告)も脳外科は独特です。
「先生、プレゼンはまず1.年齢、2.性別、3.主訴、4.現病歴、5.神経学的所見、6.既往歴の順だよ。」という注意を与え、
「この場面でその陰性所見を言う必要は無いだろう。」
「もう少しシステマティックにプレゼンしなさい」
などと、小言を言わなければならない状態でした。
彼も懸命に努力していました。
さて、我々上級医は、研修医の習熟度を測るとき、ある基準を持っています。集団回診(皆で病棟を回り、受け持ち患者の状態を部長に報告する)で患者さんをプレゼンする時、患者さんが、「研修医の方を向いているか」「その後ろに立つ指導医の方を向いているか」ということです。
「指導医の方向を向いている」状態は、患者さんが研修医を「研修医」として認識している。つまり「結局、私の治療を組み立てているのは指導医でしょう?」と考えているということです。それに対し「研修医の方向を向いている」というのは、「この人が私の主治医です」と認めてくれている、ということなんですね。
患者さんは、自分の主治医を、とても厳しい目で評価します。当たり前ですね。自分の命がかかっているわけですから。
患者さんが、研修医を自分の主治医と認める。これは非常に大変なことなのですが、なんと、2か月もすると、患者さんがちょっと訛りながらプレゼンする劉先生の顔をじっと見つめだしました。笑顔で頷いている患者さんもいます!
杞憂でした。言葉の障害などありませんでした。結局、彼の誠実な人柄が患者さんに伝わったのです。しかし2か月は早いね!と申しておりましたら、その後手技もバリバリと上達し、今ではもう貴重な戦力です。流石スーパーエリート!かっこいい!
たまに目の下に大きなクマを作りながらがんばっている劉先生。
これからもよろしくお願いします。