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ピックアップ Pickup / Column

楠山Dr

プロ意識と技術

こんばんは。皆さんお元気でしょうか。
体調は崩されてはいませんでしょうか。
急に寒くなって雪が降っているところもあるようですね。
どうぞ体調には十分気をつけて下さい。
でも不思議なものですが、日本は冬でもある所は気温30度という場所もあるようです。
そう考えると地球は広いものですね。

最近、研修医の先生とカテーテルを行うことがあります。
皆さん御存知かは分かりませんが、私が行っている狭心症に対するカテーテル治療は非常にたくさんの部品から成り立っています。

羅列していきますと・・・シース・カテーテル・Yコネクター・延長チューブ・インサーター・トルカー・ガイドワイヤー・風船・血管内超音波・ステント・造影剤・各種薬剤でしょうか。
最近では「風船治療」、「ステント治療」と呼ばれており、低侵襲治療の代表格になってきましたが,実はこれらの部品のどれが欠けても手技を行うことができません。
これらの部品の名前・役割を覚えるだけでも大変です。
私も研修を始めたときは先輩の言っている道具が分からず、ウロウロして叱られたこともあります(よく)

最近関税の話題が世間を賑わせておりますが、これらの部品も全て日本で生産しているわけではなく、世界中で生産されており日本に輸入されている物もたくさんあります。
実は医療業界の物品管理も world wide であったりします。

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更にこれだけ色々な業種でオートメーション化・機械化・AIの進出がいわれているのですが、我々が使用している物品に関しては手作りの部分があります。
これってびっくりすることですよ。

なぜならば、ある機材を生産するとき人間の手が入っていてもその製品はどれも同じように作られていなければいけません。
だって、「S」という機材を使ったときに毎回使った感触が違えば、良い手術なんてできないですよね。
S」という製品はいつどこでも同じように作られていなければいけないのです。

特に私達、冠動脈(心臓を養う血管)を扱う人間はいかんせん細かい。
経験された方は御存知でしょうが皆さんにお見せする血管は太く見えても所詮 2-4mm の血管です。そこを工事するわけです。
やることも細かければ、術者の考え方も細かくなりますし、使っている機材は極めて微細な物になります。

ステントは100μm以下の金属の厚さですし、ワイヤーは0.014inch (0.3mm) 程度です。
そのような物を細工して製品にされているのです。

その現場はなかなか皆さんには見ることができないですが、極めて細かい作業で高い集中力と器用さを必要とします。
実際にその製品を作っている方々とお目にかかる機会が以前あったのですが、その現場は正に張り詰めた空気が漲っていました。
ある種の迫力ですよね。
生産されている方々は医学を修めた方では無いのですが、非常にプライドを持って仕事をされていました。

勿論、老眼を自覚するようになってしまった楠山の目では認識できないような作業を短時間でこなされていくのです。
その手つきは正に神がかっていましたね。
更にその熟練した技術にかかると、出荷前検査で不良品ではねられるのは1%未満だそうです。
手作りでその正確さ、私の手術も見習わなければいけませんね!

その方とお話しした時、伺うお話もさることながら眼の輝きが印象に残っています。
私は魅力のある人って眼に力がある人が多いのかな、って思います。
色々な魅力ある眼がありますよね。
優しい眼、透き通って向こうが見えそうな澄んだ眼、ネコのように色々表情が変わる眼、眼で語る人・・様々です。

工場の方は非常に澄んだまっすぐな眼をお持ちでした。
我々が直接生産している技術者とはお目にかかる機会はないように、彼らもユーザーである私達の言葉を直接聞く機会は滅多にないのです。
彼らの質問は非常に厳しく必死の質問でありましたし、私達は彼らのひたむきさ・真剣さを身体全体で感じることができました。
不思議と、とてもすっきりした気分で工場から出てきたことを覚えています。

日常臨床で実際に手術をしているときは機材を出しても、その機材の特徴や弱点を考えて選択しながら手技を進めるだけでしたが、これからは一生懸命作ってくれている彼らの眼を思い出してしまいそうです。
勿論、彼らはその製品を使用した手術が成功し、我々(患者・医療従事者両方)が満足することが喜びであろうと思います。

その彼らの静かな自信・プライドは、例えるなら墨絵のような美しさ。
私の手術もそうありたいものです。
ただ、「自信」と「過信」、「プライド」と「傲慢」これらの境界線とはどこにあるんでしょうね。

うーん、眠くなってきました。
このテーマはまたいつか考えてみたいと思います。
みなさん、お休みなさい。良い夢を。

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