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ピックアップ Pickup / Column

楠山Dr

自信と過信

おはようございます。
最近とても寒い日が続きますね。
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11日は皆さん大丈夫だったでしょうか?
祝日は9時出勤で良いのでゆっくりベッドでコロコロしておりました。
なんか外がミョーに明るいな、と思ってカーテンを開けてみると一面銀世界!あれはびっくりしました。

雪の日ってなんか静かな感じがしませんか?
雪を踏みしめる足音が「ぎゅっぎゅっ」と静かな中に響く感じです。
ま、出勤という観点からは雪になれていない私としては全く迷惑なお話でしたが。
でも樹氷みたいになっている木は綺麗でしたね。

さて、先日のブログで「自信」と「過信」、「プライド」と「傲慢」のお話をしていました。
今日はその続き。

私は心臓を養っている血管を広げることを主な仕事にしております。
内科医であっても手術を行います。
勿論、メスをブンブン振り回したりせずカテーテルを使った手術ですが、手術は手術です。

以前もお話ししたように手術は安全第一ですが、その中にはある程度の思いっきりと、断固たる対応と諦めが必要になる場合もあります。
例えばカテーテルを挿入していく血管がとても曲がっているとき、血管をまっすぐにして(血管にはストレスです)カテーテルを入れていくこともあります。

だってカテーテルで心臓手術をするのに心臓まで行けなかったら手術できないですもんね。
その時に考えることはいくつかあります。

1.何とか頑張る
2.機材・カテーテルを入れる場所を変えてみて再度挑戦する
3.人間(術者)を変えてみる
4.その手術法はあきらめる(医学用語では「断念する」かな)

こんな感じでしょうか。
方法1でできれば良いのですが、そこに拘泥していても無駄に時間が過ぎていきます。
そうなると方法2になってきます。
この場合だと、カテーテルを先導するワイヤーを硬くしたりするので、血管を傷つける可能性が上がります。
それでも難しければ人間を変えてみることもあります。

ほら点滴だって入らなかったら選手交代するでしょ。アレですよ。
悔しいですが、不思議と手を変わってもらうと上手くいくこともあります。
なんか残念で悔しいような気がしますが、それで上手くいくのであればそれでいいや、ってことになります。
学年が上がるということは自分より上級医がいなくなるので方法3が選択しにくくなってきますが、後輩に変わってもらったこともあります。

最後は方法4です。
実はコレは非常に難しいです。
カテーテルって人間には6カ所しか入るところはありません。
例えば病状でその内の1カ所しか選択できなくなっていればどうでしょう。
例えば右肘からしか入ることができなくて、右肩の血管がとても硬くて曲がっている場合。

これは術者としては苦しい。
術者も全く可能性がない症例はお勧めしません。
厳しくとも勝算があるからこそ、病気としては手術が必要であるから患者さんとカテーテル検査室にいるわけです。
患者さんも我々を信頼して(多分・・)頑張って決断してくれたからこそ、我々も全力で良い結果を出しに行かないとなりません。

しかしながら先程書いたように「手術は安全第一」。
どこまで頑張って、どこで止めるのか。
これは非常に難しい問題です。
「ワイヤーを通してきなさい」「ステント置いてきなさい」より治療方針の決断は難しい。

自分の知っている方法・テクニックの引き出しを総動員して Try and Error で試していくのですが、それが売り切れたとき、あとは何となく頭の片隅を「イヤな予感」が流れ星のようによぎった時に諦めることを考えます。

そこで断念して帰ってくるのですが、その後に合併症が起こってしまったとき、「あの時もう一つ手前で止めれば良かった」と過去の自分を責めることになります。
自分を責めるのは手加減なしになるので、1週間ぐらいは結構苦しいですね。

実は自白しますと手技で2種類ほどトラウマになっているのがあります。
同じ状況が来ると変に臆病になってしまいます。

そうはいっても手術に関しては積極性も重要です。
それでなければ良い手術にならない場合がある事も事実です。

肺近くの見えない血管を注射器で探しているとき、「どこまでが自信でどこから過信なんだろう・・・」と思った瞬間、注射器に「ブクブク」って空気が返ってきたときの悲しい気分と「やっぱりぃ!」というジットリした気分。
あー、思い出しただけで鳥肌が立ちます。
あれはカテ神様?が「楠山、傲慢である!」とハリセンで後頭部をはたいているのかもしれないですね。

救いはないのですが世間って上手くいけば、難しかったけど頑張ったね、と誉められるし、合併症を起こせば「無謀だったんじゃない」と言われるわけです。
手技である以上、合併症は起こってはいけないことですが、ある一定確率で合併症は起こり、起こった場合はそれに対する対応がその医者の真の実力かと思います。

でも、起こさないことが大事。
ここまで書いてきて漸く気付いたのですが、そうなると「自信」と「過信」の線引きというには、術者が自分の実力と病気の状態を精密かつ正確に把握する能力と状況に関わらない冷静さに依っているのかもしれませんね。

今日も長いカテーテルが予定されています。
安全第一で行ってきますね。
安全と成功を祈っておいて下さいね()
皆さん、ごきげんよう。

追伸:出張の際にホテルの窓から見えた不思議なビルです。
なんだか今まさに崩壊していきそうですね。不思議なデザインです・・・。

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