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ピックアップ Pickup / Column

楠山Dr

春の香り

おはようございます。
今日は窓の外を眺めると穏やかな陽気です。
少し冷たいですが気持ちよい澄んだ風が吹き込んでいます (昨今のウイルス管理での換気のためかな?)
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月下旬は1年の中でもちょっと不思議な時期ですよね。
日本の場合は学年が変わる時期です。

所属が変わる人は古巣に対する愛着と寂しさ、新天地に向けた緊張感を感じているでしょうか。
私は学生時代に小学生相手の塾の事務員をしておりました。
悲喜こもごもの入試が終わり、6年生がいなくなり塾の中が少し淋しくなって、エアポケットに入ったようなホッとした時間です。
新しい年度を迎える準備はしているのですが時間はゆっくり流れます。
新しいシリーズが始まる前の嵐の前の静けさと行った感じでしょうか。

当院でも3月中旬に2年目の研修医が卒業し(働いておりますが)、来年度の研修医も無事国家試験を合格したようです。
ふと医局の机に座って熱いコーヒーを飲みながら「また1年始まるなー」って感じです。
どんな先生方 (国家試験合格した瞬間からもはや「先生」でプロです) とお目にかかることができるか楽しみです。

さてそのような時間があるときにはしょーもないことを考えるわけです。

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そう、春と言えば私の頭の中に出てくるイメージが桜の並木です。
爽やかな青空をバックに薄いピンクの花が咲いているところです。
散っている桜の花びらはとても綺麗ですよね。
あ、アスファルトに落ちて踏まれた花びらはちょっと美しくない、なんて言っちゃダメですよ!

日本人に桜の花が好きな方が多いと良く聞きます。
実は国花は定められていないようですが、菊と桜が代表する花として考えられているようです。
確かにパスポートや硬貨に使われていますね。

桜は咲いている時の綺麗だけではなく、散る時の美しさもあります。
散るときの「はかなさ」、「滅びの美学(日本固有ではないとのこと)」、「諸行無常(平家物語ですね)」に対する想いを持っている方が多いからかもしれません。

さて皆さんは「100日後に死ぬワニ」というネットでの連続漫画を御存知でしょうか?
私自身は読んでいないので詳しいことは言えませんが、100日後に死ぬワニの日常生活を描いた4コマ漫画のようですね。

最近、100日目を迎えたようですがインターネット上で大きな話題になっていたようです。
どうやら普通に日常生活を送っていて、100日目に花見に行く途中で道端のひよこを助けて交通事故で亡くなってしまったようです。

この漫画で印象に残ったのは、主人公・登場人物は知らないけど主人公の亡くなる日が決まっていることです。
私はこのようなコンセプトの作品は知らなかったのでとても新鮮に思えました。

で、春の風景を見ながらふと思うんです。
実はワニくん、僕もなんじゃないかなって。
日常生活をやっていると自分の死なんて考えませんよね?
私も病状説明で「人生は小説みたいな物で始まりがあれば終わりもあります」とお話しすることがよくあります。
でもふと思うんです。
私の人生がどれだけ残っているのかはこの世では誰も分からないはずと。

このブログでも同級生Aと飲んでいる写真が時々出てきますが、私の年でさえ同期全員がこの世にいるわけではありません。
「美人薄命」「才子多病」とは本当に言い得た物です。悔しいですよね。
幸い凡人の私にはあてはまりませんが、終わりは逃げられないからこそ毎日自分のベストを尽くしていかないといけないな、と最近になって思います。

このような気持ちよい春の時は「始まりの話」は良くあることですが、最初にお話ししたように「お別れ」も春の風物詩です。
昨日廊下である職員に「今日で最後なんです」と話しかけられました。

いつもリハビリでお世話になっている方です。
これまた急な話でビックリです。
ちょっと立ち話をさせて頂いたのですが、その方、「なぜ辞めるの」と伺うと、実践ではなく今まで自分がされてきたことが正しいのかを確かめたくなりましたと仰っていました。

多分、それは実臨床をかなり極めたからこそ出てくる発言であろうな、と思いました。
その方は私とほぼ同じ年でした。
キャリアも20年になってきますと日常業務は問題なくできるようになり新しいことは少なくなっていきます。
その中から自分の専門性を深く極めていったり、新しい分野に転身したりしていくわけです。
その時期は同時にマンネリ化の危険性が大きくなってくる時期にも思えます。

丁度その方も私も現役世代の中間地点です。
登山でいうなら中腹の山小屋についてちょっと荷物を置いて休憩したくなる時です。
上手く表現できないのですが私も最近似た感覚を持っていて正直ちょっと本調子ではありませんでした。
その方とお話しして自分のライフワークを違った方向から見たくなる時期なのかな、と気付きました。

そうすることで同じ事をやっていてもルーチンワークになることはなく、新鮮な観点で現役後半戦に臨んでいくことができるのでしょう。
その方は教員になられるとのこと。
後進の指導を行うことで同じ分野での貢献を継続されていくわけです。

春は出会いの季節と言いますが、ひねくれた私には「別れの季節」です。
一番好きな季節は以前申し上げたように秋ですが、春は桜が散る時の美しさに惹かれるんですよ。

人それぞれに限られた人生ですから、一日一日、一瞬一瞬を大切にしなければいけないですね。
そう、桜の花のように散るまでの間は美しくありたいものです。

更にいうなら散ることも悪くないですよね。
だって来年の新しい芽が出るためですから。
さあ、新しい年度が始まります。この年度はどんな1年になるのかな。

 

 祇園精舎の鐘の声、諸行無常の響きあり、娑羅双樹の花の色、盛者必衰の理をあらわす

 おごれる人も久しからず 唯春の夜の夢の如し たけき者もついには滅びぬ 

偏に風の前の塵に同じ                     「平家物語より」

 

美しい文ですね。情景が目に浮かびそうです。

追伸:研修医諸氏はこんなこと考えずに目の前の一日一日を大切に積み上げるんですよー。

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