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ピックアップ Pickup / Column

楠山Dr

勇気ある行動

寒い日が続きます。皆さん、お元気でしょうか。
最近、嬉しい事がありました。
自慢になりますがウチの看護師が非番で外出中に、たまたま駐車場で倒れた方に遭遇して蘇生行為を行いました。
成人の最大の心停止の原因は急性心筋梗塞症による致死性不整脈です。
コレは一刻を争う状況です。
実は病院にどれだけ医者が居てもどうしようもありません。
ほら、だから公共施設にはAED ありますよね。
彼女は勇気を出して駆けつけて心肺停止を認識し蘇生行為を救急隊が来るまでしていたようです。

その方、更に当院と御縁があって当科に運ばれてきて引き続き急性心筋梗塞症のカテーテル治療を受けて、お元気になったそうです。
これまためでたい。
更にその看護師さん、噂では救急隊の皆さんに表彰してもらえるようです!
これまた更にめでたい。

院外での蘇生行為って医療従事者であってもなかなかできる物ではありません。
似た話であるのが飛行機や電車の中で「お医者さんいませんか?」です。
あれは結構ストレスがかかります。
私、循環器内科医です。
外来や救急外来で診断することもありますが、あれは心電図やレントゲン、採血ができる状況だからです。
勿論、患者さんの見た目、聴診などの理学的所見で、首筋にゾワッと来るか、ピンと来て一発診断をすることもありますが(あれは綺麗に決まると気持ちいい)、なかなか上手くいきません。
病院しか働いたことがない人がクリニックで診療して苦労したという話を聞きます。
御開業の先生方は大変だろうなぁ・・と思います。
だからこそ我々にできる事をお手伝いするんですが・・。

閑話休題、院外ではモニター心電図も血圧計も何も無い状況で始まります。
そういう意味では院外・私服の医療従事者は皆さんが期待されているようなパフォーマンスを出すことはまず困難です。
もしできるのであれば、その人は新興宗教団体でも立ち上げた方がよろしい。

私は小学校の運動会で倒れた人がいて、「誰か・・・」に応じたことがあります。
幸いその方は心肺停止では無かったのですが、走って行く途中「わかんなかったらどーしよ・・」って思っていました。

もしかしたら医療ドラマで培われた医療従事者に対する夢を爆砕してしまったかもしれませんが、病院から出た医者のできることはそんなもんです・・・。

確かに私には手がありますから、胸骨圧迫はできます。
実は心肺停止になってしまうと急性心筋梗塞症であろうが、大動脈解離であろうが肺塞栓であろうが、頭と心臓を守る為に胸骨圧迫が一番重要になります。
院内であれば同時進行で行うことができますが、院外ではできるだけ頭と心臓に血流がある状態で運んできてもらわないと病気に対する治療ができないのです。

心臓が動かないと命は無いですし、頭がないと意識が無い状態では御本人にも御家族にも満足してもらえないですよね。
医者って冷酷なので心臓さえ動いていれば「生きてる」と言わざるを得ません。
でも「おはよう」って話しかけても目も開けてくれなければ、御家族さんにとっては「生きてる」って言えるのか、私自身もそのような患者さんを扱うことがありますが、心が苦しくなる状況です。

よくドラマにそのようなシナリオは出てきますが、実際の実臨床はなかなか上手くいきません。
心肺停止という状態は非常に厳しい状況ですし、冷酷ですが御本人や御家族さんが満足していただける状況に至る症例は実は少ないのが正直なところです。

だからこそ救急隊の皆さんや地域コミュニティで心肺蘇生法講習会が開かれています。
最近二足の草鞋を履けなくなって一部引退しましたが蘇生教育にも関わる機会を頂いておりました。
その時思ったのはどれだけ講習会で勉強・実習していても、なかなか突然その現場に放り込まれると継続的な訓練・心構え・覚悟がないと身体が動かないですし、混乱します。

先輩の言葉を借りると「コントロールできるある程度の混乱は仕方ないよ」ということになるのでしょうが、現実はだいたい混迷を極めてしまいます・・・。
でもその看護師さんは身体がちゃんと動いて、正しいことをし続けることができたのでしょう。
だからこそ、その患者さんは蘇生に成功し原因である心筋梗塞症の治療を行うことができました。

心筋梗塞に対するカテーテル治療をした先生方は良い仕事をしたので当然拍手!であり、そこまでの救急隊の方、救急外来のスタッフなど救命の連鎖と言われる物があります。
今回それが上手く機能したと言うことも素晴らしいことです。
ただ、本当の意味でその方を救命したのは院外で蘇生行為を行った彼女です。
非番で医療資産が無い状態で自分から動いてくれた事は、陳腐な「すばらしい」という形容詞ではなく、「勇気ある」行動でした。

その看護師さんとはまだ直接話をしていませんが、一度お目にかかってお話ししたいですね。
良い意味で今回の事で自信をつけて更に研鑽を積んで欲しいと思います。

実は先日新型コロナウイルスのせいで蘇生講習会をキャンセルせざるを得ませんでした。
私は彼女から微力ながらも蘇生教育を継続することの大切さを教えてもらったように思います。

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