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ドクターインタビュー DOCTOR INTERVIEW

ドクターインタビュー

根治性、低侵襲性、安全性のある手術を目指して

呼吸器外科 主任部長 常塚 宣男

どのような診療を行っていますか?

私はツカザキ病院に2021年4月から勤務しております。前任地は金沢の石川県立中央病院で15年間呼吸器外科の責任者を務めておりました。 呼吸器外科=肺がんの手術というイメージがありますが、肺だけでなく左右の肺の間の縦郭領域や横隔膜などを含めた胸部領域の様々な疾患を手術中心に治療する科です。対象疾患は多数であり、原発性肺がんや転移性肺がん、肺良性腫瘍、炎症性腫瘤・肺非結核性抗酸菌症(MAC症)やアスペルギルスなどの感染性腫瘤、胸腺がん、胸腺腫、重症筋無力症、神経原性腫瘍などの縦隔・胸腺関連疾患、悪性胸膜中皮腫、悪性リンパ腫、気胸・巨大肺嚢胞、血気胸、膿胸、肺膿瘍などです。あまり知られていない疾患としては横隔膜弛緩症に対する縫縮術、多汗症に対する胸部交感神経切断術、月経随伴性気胸などがあり、これらの手術も行っています。当然、がんの場合は手術だけでなく周術期治療(がんの手術の前後の治療)も行います。開設して1年半経過しましたが、様々な疾患のご紹介がありました。患者さんの訴えや希望をよく聞くように努力し、迅速な診断と治療を心がけています。

胸腔鏡手術について

ほぼ全ての疾患に対し胸腔鏡手術という内視鏡下での手術を施行しています。金沢大学で開始し、約25年前から行ってきた内視鏡による手術は現在胸腔鏡手術として広く全国に浸透してきました。石川県在住のころから、縁あって北陸では唯一の近畿胸腔鏡手術研究会の世話人をさせていただき、関西圏の医師との交流があります。また20年前のドイツ留学時も、ドイツではあまり施行されていなかった肺がんに対する胸腔鏡手術も指導してきました。もっとも、今でも多くの医師に誤解されているのですが、胸腔鏡手術は低侵襲ということだけで施行しているわけではありません。この手術を私が行う意義は術者がモニターでの大きな視野で安全に、しかも根治性がある手術が無理なくできると考えているからです。ですから、この手術アプローチでは困難で時間がかかったり、安全性が担保できないと思う場合は胸腔鏡手術を適用しません。しかし、現実には95%以上の方が可能です。創は1箇所から3箇所で行いますが、経験上、肋間を拡げない手術であれば、創の大きさや数は術後胸痛の強さや術後ADL(日常生活動作)と関連しません。創1箇所で行う手術は単孔式手術と呼ばれ、胸部領域でも現在拡大してきていますが、適応は少し異なると考えています。このアプローチは大腸手術ですでに行われていましたが、安全性とリンパ節郭清の観点から現在は少数の施設でのみ施行されており、結果的に普及しませんでした。
また今年からダ・ビンチという手術支援ロボットが当院にも導入されます。胸腔鏡手術と同等の根治性、安全性、予後が報告されており、また術者にとっては操作性の容易さと習得期間が胸腔鏡手術より短いことが報告されています。

肺がんの特徴を教えてください。

肺がんはなかなか扱いの難しいがんの中の一つです。日本人のがんによる死因のトップとなっているのが肺がんです。昔は扁平上皮がんや小細胞がんといった「喫煙」に関係する肺がんが多かったのですが、最近は喫煙をしない女性の肺がんに多い腺がんが増えてきました。「私、タバコを吸わないのになんで肺がんが出来たのですか?」とよく聞かれます。しかし、肺がんに限らず、がんは正常細胞が複製する時の遺伝子(DNA)のコピーミスでおきます。人間の細胞は約60億個ありますが、毎日大体1%の細胞が死にますので、それを補う形で正常な細胞が分裂して複製しているわけです。大変な数の複製の中で、少しミスが起きます。いうなれば正常細胞とは遺伝子のちょっと違う細胞ができるわけです。タバコはそのコピーミスの原因の一つにすぎません。これらのコピーミスの細胞がすべてがんとして成長するというわけではないですが、DNAのコピーミスの部位が悪いと複製に歯止めが効かなくなりがん細胞になります。がん細胞は正常細胞を押しのけてまでどんどん増え大きくなります。一つのコピーミスでがんになる場合と複数の蓄積したミスでなる場合があり、後者はタバコなどが原因です。普通、人のがん細胞は1日に5000個以上できていると言われています。それらを普通は自分の免疫細胞で壊しているわけです。人は年を取ると免疫力が下がってきますのでコピーミス細胞を壊すことが出来なくなってきます。そうするとがん細胞は生き残り、がん細胞は正常細胞よりも糖が必要ですので、栄養を奪い取りゆっくりと大きくなってきます。10年から15年前に生き残ったがん細胞が徐々に大きくなり、CTやX線で見えるくらいに大きくなって発見されるというイメージです。

肺がんの症状を教えてください。

肺がんは相当進行しないと咳や胸痛などの自覚症状が現れないことが大多数です。特に女性の腺がんは肺の奥(末梢)にできることが多く、なかなか咳や痰などは出ません。症状が出やすいとされる比較的太い気管支にできるのはタバコに関係のあるがんですが、こういったがんでさえ、ある程度大きくならないと症状はなかなか出にくいのです。がんはその性質によって増殖スピードが異なります。一般には約4か月で容量が倍(径が1.4倍)になると言われていますが、径1mmが2mmになるのと4㎝が8㎝になるのとは臨床的・症状的には訳が違います。大きくなればなるほど症状は出やすいのですが、問題は大きくなるにしたがって転移の確率が上がることです。転移というのはリンパ管や血管にがんが侵入してリンパ節や他の臓器に移動して大きくなることです。俗にいわれる“がんが飛ぶ”ということです。飛びやすい臓器も決まっていて肺がんでは脳、骨、肺の中の他の部位、副腎、肝などです。もちろん筋肉など珍しいところにも行く可能性はあります。だから、呼吸器症状が無くても、頭痛で検査したら肺癌の脳転移ということもあるわけです。

手術以外の肺がんの治療法を教えてください。

肺がんの治療法としては、現在日本の保険で認められているものでは手術療法・化学療法・放射線療法・免疫療法などがあります。治療は局所的な治療と全体を治療する全身治療があります。手術や放射線療法は局所治療、化学療法や免疫療法は身体全体に行う全身治療です。これらを単独で行ったり、組み合わせて治療します。組み合わせで行う治療は集学的治療と呼びます。
特に内服したり点滴したりする化学療法に関しては、現在は気管支鏡検査や手術で取った肺がん細胞の遺伝子検査や免疫学的病理検査の結果で治療法が細分化されています。

最後に読者へメッセージをお願いします。

肺がんを始めとする胸部の疾患は手術で完全に治すことが可能な疾患が多くありますので億劫がらずにご来院ください。なお、肺がんは全体では5年生存率が約30%と非常に難しいがんですが、早期発見で手術をすると根治可能(治癒可能)ながんですので早く見つけて早く治療ということが極めて大切です。肺がんに罹患する危険性が高まる40歳代の方や過去に喫煙歴があった人は、年に1回のレントゲンによる肺がん検診だけでなく、胸部CT検査を受けることをお勧めします。

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