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ドクターインタビュー DOCTOR INTERVIEW

ドクターインタビュー

こころをつなげ、家庭・仕事・社会面に配慮しつつ、乳がんを治します

乳腺外科 部長 小倉 信子

乳がん 〜早期発見で治る可能性の高い病気〜

当科では、乳がんをはじめとする乳腺疾患を治療しています。
わが国では乳がんは年々増加しており、女性のがんの中では最も多く、女性の約9名に1名が乳がんに罹患する頻度となっています。今後もさらに増えると予想されています。家事・子育て・仕事など様々な社会的役割に多忙な40歳~50歳代の女性の患者さんが多いです。
しかし、乳がんは早期発見早期治療で治癒する可能性の高い病気です。病気の進行度を表す病期のうち、浸潤がんでは最も軽いのがステージ1です。ステージ1の乳がん患者さんが診断から10年後に生存している割合は98.3%と良好なものです(2005~2008年 全がん協会発表のデータより)。
早期のうちに乳がんを発見するには乳がん検診を受けること、自分でも月に1回は乳房を触ってしこりの有無をチェックすること(自己検診)が有効です。検診で要精密検査と記された通知がきた場合、あるいは自分でしこりを触った場合には、当院乳腺外科を受診してください。

乳がんについて、どのような診療を行っていますか?

検査を受け乳がんと診断された場合は、迅速に適切な治療を受ける必要があります。生検検査によって乳がんのサブタイプ(女性ホルモン感受性のあるルミナル型、がん細胞を増やすHER2因子を過剰に発現しているHER2陽性型、女性ホルモンもHER2因子も関与しないトリプルネガティブ型)を判定し、局所治療(手術、放射線療法)と全身治療(抗女性ホルモン剤、抗がん剤)を組み合わせて治療します。乳がんの5~10%を占めるといわれている遺伝性乳がん(遺伝性乳癌卵巣癌症候群、HBOC)の検査も実施しています。AYA世代(15~39歳)の患者さんの妊孕性維持の相談にも対応します。 現在は、再発して乳がんで命を落とす患者さんは少なくなってきています。
①検診を受ける ②異常が見つかればすぐ受診する ③必要な検査を受け、治療を一つ一つこなして完遂すること
それらすべてが結果に結びつきます。私たちツカザキ病院乳腺外科が検査・治療を進め、乳がんがもたらす体・心・社会面における苦しみを小さくするようにサポートします。

当科で力を入れている治療法:抗がん剤治療中の副作用軽減

乳がんの病期、サブタイプ(ルミナル型、HER2陽性型、トリプルネガティブ型)に基づき、抗がん薬・分子標的薬を用いた化学療法を外来通院・入院で行っております。化学療法の副作用を予防するために、薬剤の使用のみならず、脱毛(手術前・後のみ)および手指のしびれ・筋力低下を予防する治療を組み入れています。

脱毛予防のための頭皮冷却療法

乳がん患者が手術前・後に受ける化学療法では、副作用である脱毛は非常に多く、96.2%~100%といわれています。また化学療法終了後5年以降も再発毛が少なく、ウィッグが手放せない方も5〜10%ほどおられます。
頭皮冷却装置は頭皮の血管を収縮させ血流量を減少させることで抗がん剤の影響を減らし、脱毛を予防することができます。PAXMAN社の頭皮冷却装置で毛髪を維持することができたのは、アメリカの研究では50%、我が国の研究では26.7%であり、有効で安全であることが証明されています。2019年「化学療法中の頭皮冷却」としての適応が厚生労働省に承認されました。私は前任地:関西電力病院にて手術前・後の化学療法の際に頭皮冷却を行ってきましたが、当院でも導入を開始しました。
手術前・後の化学療法が必要で頭皮冷却を希望される乳がん患者さんからのご相談にお応えしますので、ご連絡ください。。

手術手袋による圧迫療法

乳がん化学療法で用いられるタキサン系薬剤では、高い頻度で手足の末梢神経障害の副作用が起こります。手指や足の裏がしびれ、筋力が低下し、日常生活の妨げとなります。治療終了後もしばらくの間続き、数年経過しても指先のしびれが治らない患者さんも存在します。手術手袋を用いた圧迫療法により、しびれの発生を従来の発生件数の3割にまで抑えられたと報告されています。
当院では、手術用手袋を化学療法中に装用し手指の皮膚を圧迫することで手指のしびれを予防する治療を行っています。

どのようなことを心掛けて診療に当たっていますか?

乳がんの患者さんは、診断前から特に診断直後に不安な気持ちにとらわれます。病状に合わせて手術・抗がん剤・放射線治療などの初期治療を提案され、それぞれの治療段階をこつこつと一つずつこなす必要があります。早期乳がんであっても、初期治療終了後も経過観察や内分泌療法を10年間は続けなければならず、10年かけてやっと乳がんを克服できるといえます。すでに転移のある乳がんの患者さんの場合、さらに濃厚な治療をずっと続け、行先の見えない不安感を抱き続けることが多いです。
早期乳がんの初期治療では、化学療法を受けるとつらい副作用に向き合わねばならず、時にくじけそうになることもあります。しんどい時期が終わってからも10年間は病院に通院し、乳がんと向き合っていくことになります。「ひょっとすると再発して人生が終わってしまうかも」「時々傷の周囲が痛んだりする」「体が弱ってしんどい」「以前と同じようには動けない」「子供・配偶者のこと、仕事の継続や経済面の不安」「自分の姿が変わって戻らないんじゃないかという不安」「もし遺伝性乳がんであったら子供たちも同様のがんに罹るかもという不安」など様々な悩みを抱えながら過ごします。私たち乳腺外科スタッフが、それらの不安・悩みに寄り添い、一つ一つ解決するお手伝いをしていきます。
薬剤による治療法の発達に伴い、年々乳がんに命を奪われる患者さんは少なくなってきています。さらに治療の副作用を少なくする方法も発達しています。乳がんの予後の改善に中程度の身体活動が有効であることがこれまでの研究でわかってきました。身体活動とはいわゆる「運動」で、がん治療後の患者さんには敷居の高いものかもしれません。しかし、「自分でできるがん治療」として「運動」を生活に取り入れることは有益です。ストレス解消・不安の軽減・良眠から生活にリズムが生まれ、気力が戻ってきます。
前任地では「セラピーヨガの集い」という運動(ヨガ)でつながる患者会を定期的に開催してきました。当院でもコロナ禍がおさまり、病院内で人が集まれる状況に戻ればそのような患者会を開催したいと考えております。

最後に読者へメッセージをお願いします。

私たち乳腺外科は乳がん患者さんの体を治療するだけでなく、心や社会面の問題にも共に向き合い、きめ細やかにサポートしていきます。一人一人の患者さんが、乳がんという病気と極力折り合いをつけながら日々の暮らしを営み克服できるよう、手を携えて歩んでいきたいと思います。検診で要精密検査と記された通知がきた場合、あるいは自分でしこりを触った場合には、当科を受診してください。当科の検査スタッフは女性ばかりですので、安心して受診できます。

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