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うっ血性心不全

うっ血性心不全

心不全とはどんな状態でしょう?皆さんも「大きな病気」、「息が苦しくなる」というイメージはお持ちかもしれませんが、なかなか明確なお答えが出ないのではないかと思います。 楠山思いますに心不全とは「何らかの原因で心機能が悪くなり全身に十分な循環ができなくなった状態」です。そうです。「病気」と書いていませんね。心不全は「状態」です。

心不全の症状を考えるには少しだけ心臓の構造を理解しておくことが重要です。

簡単にまとめますと

  • 左心系:肺から酸素を取り入れて心臓から全身に出ていく回路
  • 右心系:全身から心臓へ帰ってきて肺へ出ていく回路

症状

左心系が悪くなると全身に血液が出なくなりますので、肺に水が溜まってきます。
肺の血管からガス交換をする部分に水(血漿といいますが・・)がしみ出てきます。
折角、肺に酸素が入ってきても血液に酸素を取り込むことができません。酸素の入っていない血液を全身に送っても各臓器が困ってしまいますよね。

左心系の症状としては低酸素血症が病気の本態となりますので

  • 労作時呼吸困難、進行して安静時呼吸困難
  • 起座呼吸(夜寝ていたのに息苦しくて目が覚め(なぜか午前2時3時ぐらいが多いのです)、座っていた方が息が楽な状態)
  • 動悸(不整脈とは限りません)
  • 四肢のチアノーゼ

などが挙げられます。
意外と咳嗽・喘鳴もありで最初は気管支炎や気管支喘息として治療されていた方が、治りが悪く、心不全であったという症例もしばしば経験します。

右心不全は単独で起こることより左心不全に引き続いて両心不全の一部として起こる事が多いです。 右心系の症状としては全身から心臓への還流できないことが本態になりますので

  • 顔面・四肢の浮腫(治療すると目元の浮腫がとれてハンサム/美人になったと喜ばれた患者さん達がいました・・・)
  • 食欲不振 (腸管浮腫が出てきます)・重症になると腹部膨満・陰嚢水腫など
  • うっ血肝 (採血でも肝機能の数値が上がります)
  • 体重増加 (筋肉や脂肪が増えているのではなく、水が増えているだけです)
  • 頸静脈の怒張

などです。
以上が主な症状になってきます。心不全も重症度は非常に様々で外来投薬で管理可能な方もいれば、一般病棟での入院、集中治療室で集学的な管理を必要とする患者さんもいます。

検査・治療

救急外来で必要なことは、第一に呼吸状態を含めた血行動態の保全を行うことです。

まず呼吸困難で搬送された方の症状を取る必要があります。心電図モニターを付けて、点滴を入れて、酸素を投与します。必要があれば見た目は少し悪いですがマスクの人工呼吸器を装着する場合もあります。口から管を入れる人工呼吸器管理は以前(私が研修医時代)は良くやっていましたが、少なくなりました。

まずバイタルサイン(呼吸状態や血圧など)を安定させて入院の上、心不全に対する治療に入ります。十分な酸素投与と血管拡張薬・必要があれば利尿剤・強心剤などを組み合わせて投与します。 急性心筋梗塞症・緊急治療を要する不整脈を認める場合にはその場で緊急治療を行います。

心不全治療の経過は患者さんによって様々です。心機能の違い・年齢・特に肺や腎臓など他臓器の状況・肺炎など感染の有無などで治療の難しさは変わってきます。当院ではリハビリテーションは充実しており当科でも早期の心臓リハビリテーションの介入によって心機能の改善・病状によりますが早期離床と廃用症候群の予防を目指します。

入院後は尿も多く出ることもありますので、採血で電解質や腎機能をチェックしたりレントゲン比較しながら治療を進めていきます。

心不全に対する治療が進み、点滴から解放されリハビリテーションで病棟の中を歩き出したりすると心不全治療の次の段階へ進みます。

なぜ心不全が発症したのかを精査し、治療を行うことが重要です。

この稿の最初に「心不全は状態である」とお話ししました。勿論、心不全という 状態から脱却していただくことは非常に重要ですが、それの原因を調べて治療することは心不全の再発を予防する観点からは非常に重要です。心不全の原因は心臓は勿論、心臓外の疾患が原因であることもあり視野を広く持つことが重要です。

1.虚血性心疾患(急性心筋梗塞症・狭心症)

心不全に対する治療が進み、点滴から解放されリハビリテーションで病棟の中を歩き出したりすると心不全治療の次の段階へ進みます。

2.弁膜症

先の心臓構造の図のように心臓は4つの部屋からできています。それぞれの部屋の間に扉があり、逆流を防いでいます。しかしながら弁の開きが悪くなったり(狭窄症)、閉まりが悪くなったり(閉鎖不全症)すると心臓に負担がかかってきます。初期では全く自覚症状はなく、徐々に心臓に負担がかかり知らない間に心機能の低下を来すようになります。
勿論、弁膜症も軽症から重症まで様々な程度があります。心不全が落ち着いた段階で検討し、必要がある患者さんは手術をお勧めしますし、お近くの先生を御紹介し、当科でも何ヶ月に1回という間隔で心臓超音波検査で経過観察を行う場合もあります。
しかしながら心不全の原因となるような弁膜症は手術を必要とする場合が多いです。

皆さんもお家の扉が壊れたらガムテープで修理しますか?しませんよね。扉を修理してもらったり、扉ごと交換してもらったりしないといけません。そうなってくると心臓血管外科の出番となります。
勿論、手術されるのが好きな人はいませんよね(たぶん)。でも心不全の原因となるような弁膜症を放置しとくとどうなるでしょうか?

心臓はおよそ1日に10万回拍動します。弁膜症があるとその1回1回で徐々に心臓に負担がかかってきます。毎日それが続きますので心機能の低下が更に進んでしまいます。結局、心不全が再発してしまうのです。心不全が再発して手術をしようと決断された時、心機能が保たれた人と心機能が悪くなってしまった人では手術の経過はどちらが楽でしょうか?
皆さんの御想像の通り心機能が保たれた方の方が手術成績が良いことはいくつかの臨床研究で証明されています。

弁膜症の手術に関しては病状や全身状態を含めて心臓血管外科と十分な意思疎通を取りながら検討し、皆さんに治療法の提示を行っていくことになります。

3.不整脈

不整脈は頻脈性(脈が速くなる)不整脈と徐脈性(脈が遅くなる)不整脈があります。

頻脈性不整脈ですが、うっ血性心不全で良く認められるのは心房細動・心房粗動を合併している患者さんが多いです。救急外来で拝見しますと、不整脈だから心不全になっているのか、心不全だから不整脈になっているのかと「ニワトリと卵の関係」の様に明確にわからない場合も多々あります。
薬剤で脈拍数のコントロールを行ったり、不整脈が発症して心不全になったことがわかるのであれば、状況に応じて注射で麻酔をかけて電気ショックで不整脈を治療することを試みることもあります。
その後は心不全に対する治療を行い、病状が安定した段階で不整脈に対する治療方針を決定していきます。

一方、徐脈性(脈が遅い)不整脈の場合は、脈が余りにも遅い、または一時的に心臓が止まってしまう状況で脳に十分な血流がないことで意識消失発作やふらつき・眼前暗黒感を呈する場合や脈が遅いことで心不全を呈する場合は首の静脈から緊急用のペースメーカーのカテーテルを挿入し拍出量を保ちます。

(1分間に拍出される血液)=(1回の拍出量)× (心拍数)です。

健常な方の心拍数はおよそ毎分 60-80回です。心拍数が毎分30-40回になれば1分間に拍出される血液は半分になります。心不全の原因となることが御理解いただけるでしょうか。

4.心筋症

虚血性心疾患や弁膜症が原因ではなく、心筋そのものが悪くなることで心機能が低下する病気です。
代表的な心筋症としては

拡張型心筋症 心筋そのものが悪くなって心臓が大きくなってしまいます。
心臓の収縮力も悪くなってしまいます。
肥大型心筋症 心筋が不均一に分厚くなる(肥大)する病気です。
心臓はポンプですが、弾力がなくなり拡張しにくくなることで心機能が悪くなります。
心臓の出口が狭くなるものもあります。
高血圧性心筋症 高血圧を放置しておくと左室全体が肥大します。これも心臓のポンプである左心室の弾力がなくなりポンプ機能の一つである拡張能が障害され心不全の原因となります。
「高血圧は万病の元」とはよく言ったものですね。

その他、糖尿病性心筋症・虚血性心疾患や弁膜症を原因とする心筋症と全てが解明されているわけではありませんが様々な心筋症があります。勿論、これらは検査で虚血性心疾患や弁膜症の否定が必要ですね。

5.先天性心疾患

最近は乳幼児の健診がしっかりしていますので、我々もお目にかかる機会は少ないですが、心不全の一因となり得ます。

6.心臓外からの心不全

皆さんは心不全と言いますとこれまで述べてきたような心臓が原因であるとお考えになりませんか?
実は心不全は全身疾患で視野を広く持たないといけません(あくまで個人的意見ですが・・)。
以下に挙げるような疾患が心不全を起こし得ます。

  • a. 甲状腺機能亢進症
  • b. 腎不全による溢水(心臓は良いのですが、水が体外に出ていかずに溢れます)
  • c. 高度の貧血
  • d. 肺気腫(肺性心とも言います)
  • e. アミロイドーシス
  • f. アルコールの多飲
  • g. 脚気 (大航海時代で現代はないとお考えですか?実はまだ絶滅していません)

色々考えながら治療をしていくことが必要です。

うっ血性心不全の診断がつけば、先程の説明のように人工呼吸器や薬剤を使用して呼吸状態の安定を図り、水分バランスの調整を行います。内服薬でのコントロールができるようになりましたら、カテーテル検査・心臓超音波検査などで上記の原因について精査します。
虚血性心疾患・弁膜症・不整脈などであればそれぞれの疾患に対する特定の治療を行い、心筋症に関しては利尿剤や降圧剤などの調整を行います。心臓外の疾患による心不全であれば心不全治療と共に治療を開始します。

心不全患者さんに対しては医療従事者からの継続的な医学的管理・生活指導の介入が必要不可欠である。

医療従事者のみではなく、御本人・御家族に病気を理解していただき、日常生活管理の重要性を理解していただくことが重要である。

治療に対するアドヒアランス向上を目指す

さて、心不全に関してもこれで終わりではありません。元気になって退院してもそれは病気の一場面が終わっただけで、重要なのは退院し日常生活に復帰されてからです。

再発防止のために

心不全を患われた方は心不全とうまくつきあっていくことが重要です。心機能が良くなることは滅多になく、残された心機能をうまく使ってできるだけ制限のない日常生活へ復帰していただくことが目標となります。
また心不全を繰り返せば繰り返すほど入院の回数も多くなり、日常生活強度も低下していきます。質の高い日常生活を続けていただくためにも良い生活習慣を持って帰っていただきたいと思います。

孫子は「彼(てき)を知り己を知れば百戦危うからず」と記しています。

やはり病気も同じで患者さん・御家族に心不全をよく知っていただき、生活習慣の見直し・改善が再発予防にも重要であると考えています。

慢性心不全管理で重要な点としては

  • 規則正しい生活
  • 暴飲・暴食を避ける
  • 塩分の控えめな食事(心臓食そのものは難しいですが・・・)
  • 適度な運動(入院中に心臓リハビリテーションがあり指導もしています)
  • 内服薬をしっかり内服すること
  • 体重・浮腫の管理 (早めに心不全の再発を認識して治療することは重要です)
  • 風邪などをひかないように一般的な感染予防

どうしてもうっ血性心不全に関しては悪くなったときが治療するとき、と思われがちですが、状態が良いときの日常生活が、良い状態を長持ちさせるために重要であることを理解して頂きたいと思います。

【文責:楠山 貴教】

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