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虚血性心疾患

虚血性心疾患

心臓は、全身の臓器や筋肉に酸素と栄養を運ぶために血液を送り出していますが、心臓自身も血液の供給を必要としています。心臓に血液を供給する血管を冠動脈といいます。冠動脈は3本の血管から成り立っています。左前下行枝・左回旋枝・右冠動脈です。

そして虚血性心疾患とは、冠動脈内腔が狭小化し、冠血流が低下、または消失することにより心筋虚血が引き起こされ心臓に障害が起こる疾患の総称です。虚血性心疾患は大きく分けて心筋梗塞症と狭心症があります。

虚血性心疾患の治療法

虚血性心疾患には以下の3つの治療法を挙げることができます。

  • 冠動脈バイパス術
    冠動脈の狭くなっているところの先に自分の血管(胸の動脈や足の静脈)を冠動脈に吻合(つなぎ合わせること)する手術。正にバイパスです(この辺でしたら国道2号線と姫路バイパスの関係でしょうか)。
  • 経皮的冠動脈形成術(カテーテル治療)
    冠動脈が狭くなっている部分に柔らかいワイヤーを通して風船やステント(金属チューブ)・ロータブレーターを使用して元々の冠動脈を広げる手術。土管工事ですね。
  • 内服治療
    全身状態やその他の臓器の状況で手術が難しい場合、非常に小さな冠動脈が病変の場合は冠動脈を構造的に広げたり、バイパスするのではなく、内服薬で症状緩和を得る方法。手術ではないのでリスクはないですが、再発リスクは高くなります。

以上3つの選択肢から治療方針を決定します。
当院では心臓血管外科もありますので心臓血管外科医と密に情報交換を行い、すべての選択肢を提示させていただくことができます。ここでは当科で行っているカテーテル治療について説明させて頂きます。

カテーテル治療

昔(私が医師になる前)は風船(バルーン)のみでした。しかしながら再狭窄率も高く30-40%の再狭窄率でした。その後、ステントが出現し再狭窄率は20%程度に改善しました。
バルーンの再狭窄の機序と異なり、ステントの再狭窄はステントがつぶれるのではなく、新生内膜という膜がステント内に張ることで血管内腔が狭小化するものでした。
新生内膜に対して2004年に薬剤溶出性ステントが出現し改良を重ねて今では再狭窄率は10%以下にまで改善しました。
成績の良さで華々しくセンセーショナルなデビューを飾った薬剤溶出性ステントですが、世界で広く使われるに従って注意するべき点もわかってきました。

抗血小板剤(血をサラサラにするお薬)を完全にやめてしまうとステントが血栓で詰まってしまう問題が起こったのです。患者さんが自己判断で中止してしまった症例もあれば外科手術を受けるために内服中止してしまった症例もありました。
現在では他科の先生方にも広く知識が広がり、内視鏡手術や外科手術でも1種類を内服しながら手術をして頂けるようになってきています。

勿論、当科も大部分が薬剤溶出性ステントを使用しておりますが、出血している患者さんや大きな手術を予定されている患者さんなど、個々の症例に応じて薬剤溶出性ステントではない通常のステントを選択する場合もあります。

透析患者さんへの対応

また当院は心臓血管外科を併設した維持透析施設を持つ循環器内科でもあります。糖尿病患者さんや維持透析患者さんでは同じ虚血性心疾患でも非常に高度な石灰化を伴う病変を経験します。
普通の風船(バルーン)では風船の方が割れてしまったり、ステントを留置しても石灰化に負けてしまって十分拡張できず、良い長期成績を得ることができません。
非常に高度な石灰化病変に対してはロータブレーターを使用して石灰化を削ったり割ったりして内腔を得て、ステントを留置して血流を改善させます。
ロータブレーターは先端にダイヤモンドチップが埋め込まれたドリルで毎分 16-20万回転させて病変部を削ります。ダイヤモンドですので石灰化でも削ることができます。

患者さんのお言葉を借りると「歯医者さんみたいだね」と言われますが、原理は正にその通りです。

確かにロータブレーターは石灰化病変に対する治療効果は絶大でありますが、万が一起こる合併症も冠動脈穿孔・末梢塞栓(削りカスが先に詰まること)など大変な合併症もあるため、現在は施設基準 注)が設けられております。
当院は施設基準を満たしており、特に維持透析患者さんを初めとした高度石灰化病変に対する狭心症治療において、更なる選択肢を提示し良好な開大を得ることに寄与しております。

注)心臓血管外科が併設されており、年間30例以上の開心術・冠動脈バイパス術と
年間200例以上の経皮的冠動脈形成術を施行している施設

治療自身はカテーテル検査と同じ部屋で行い、雰囲気も似ています。やはり手術でもあり検査と比較すると時間はかかりますが、我々や看護師も皆さんに声かけしながら手技を進めていきます。
足の付け根からの場合は7-8時間の安静が必要になる場合もあります。その場合は傷の確認をするまでは座って頂くことができず不自由をおかけしますが、病棟看護師がお手伝いさせて頂きます。
手首や肘の場合はお手洗いなど歩いて行っていただくことができます。

当院では手術においてもできるだけ低侵襲を考慮し手首からの血管が無い場合は肘からのカテーテル治療を心がけておりますが、ロータブレーターや慢性完全閉塞病変(完全に閉塞している冠動脈に対する血行再建)、血管の状態などを総合的に検討し足からのカテーテルを選択することもあります。

血行再建後の管理

治療が終了し、翌日に傷や採血で問題がなければ退院していただきます。ただし、虚血性心疾患の治療は退院が終了ではありません。
勿論、先に述べましたように抗血小板剤の内服は絶対的に必要です。また虚血性心疾患は動脈硬化病変でもありますので、動脈硬化に対する治療を行うことで虚血性心疾患の再発リスクを下げることが次の治療目標となります(「二次予防」と言います)。
よく知られている冠危険因子(虚血性心疾患の危険因子)は高血圧症・脂質異常症・糖尿病・肥満・喫煙です。高尿酸血症を含める場合もあります。これは生活習慣病やメタボリック症候群で皆さん良く耳にされることがある病気ばかりです。

虚血性心疾患は手術が成功して治療は終わりではなく、動脈硬化進展予防を目的とした生活習慣病に対する積極的な治療を継続する必要があります。そのためにも治療が終了しましたらお近くの先生に御紹介させて頂いております。
勿論、フォローアップや新たに心疾患で問題が出てきましたら先生方から御紹介いただき検査・治療を行います。地域ぐるみでの治療が必要な病気だと考えております。

またカテーテル治療の場合は6-8ヶ月後に再狭窄が多くなりますので、6ヶ月後ぐらいでの外来フォローアップをお願いしております。退院時に外来予約やお近くの先生への情報提供を行っております。

【文責:楠山 貴教】

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