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PFO(卵円孔開存)

PFO(卵円孔開存)

はじめに

脳梗塞を起こされた方にみつかった 卵円孔開存と呼ばれる心臓の『すきま』を、胸を開く手術をせずにカテーテルと呼ばれる細い管で閉じる治療が始まっています。

 

卵円孔開存について

卵円孔というものは聞きなれない言葉かもしれませんが、お母さんのおなかのなかにいたときに、心臓のなかにあった扉と考えていただければと思います。心臓には大きな部屋が4つあり、それぞれ右心房、右心室、左心房、左心室といいます。右心房と左心房というお部屋の間にあった扉が卵円孔です。
赤ちゃんとお母さんを結ぶ『へその緒』から右心房に巡ってきた酸素や栄養の多い血液がこの扉を通り抜けて左心房に抜け、赤ちゃんの全身をめぐりますので、お母さんのおなかのなかで赤ちゃんが成長するには必要な扉でした。

お母さんと赤ちゃんと共に大変なお産を乗り越えたあと、産声をあげ左心房の圧力が高くなり、またへその緒からの血液が途絶えると、左心房側の壁(一次中隔といいます)が右心房側の壁(二次中隔といいます)に押し付けられます。押し付けられ交通をなくしやすい構造をしており、卵円孔の扉が閉じ、傷が治るときのように癒合して閉じるといわれています。

しかし、ぴったり閉じずに『すきま』のある人は、(その証明の方法にもよりますが)4人に1人程度いるといわれています。つまり4人に1人は、『卵円孔開存』と呼ばれる状態なわけです。

そうなると4人に1人 この治療を検討するの? なんて疑問がわいてしまうでしょうか。

難しい話となってしまいますが、少し話を続けようと思います。

卵円孔開存であっても、普段 右心房にくらべて左心房の圧力が強く、扉は右心房側に押し付けられ、酸素の少ない右心房の血液が左心房側にながれることがない状態でいることがほとんど、とされています。

  

しかし少数派ながら、広い範囲で扉があいていたり(心房中隔瘤)、扉に行きやすい構造が残っていたり(Eustachian)するなど、右心房の血液が左心房に流れやすい卵円孔開存が見られることがあります。

そういった方は、咳やくしゃみによっても、卵円孔開存の右心房から左心房への血液の流れが強くなります。

卵円孔開存と、脳梗塞について

そもそもなぜ、右心房から左心房への血液のながれが生じてしまうことが問題となるのでしょうか。
冒頭にもお示しした『脳梗塞』の原因となることがわかったからです。

 
近年の報告では60歳未満の若い方の脳梗塞の半数以上はこの卵円孔開存が関係するといわれています。
右心房は普段、全身から帰ってくる酸素に乏しい血液以外にも、脚の静脈でできた血液の塊(血栓といいます)がかえってきます。脚の静脈に血液の塊なんてできるの?! なんてびっくりされる方もいらっしゃるかもしれませんが、脚の静脈に血栓ができても半分以上の方が症状がないため、知らないだけで多くの方に自然に脚の静脈に血栓が生じ、時にはがれて心臓の方に流れてくるといわれています。

 

心臓に流れてくると、最初の心臓のお部屋は右心房です。前述のような右心房から左心房に血液のながれがない方は右心室という部屋に入り心臓自体にはひっかからず、最終的には肺の動脈にひっかかります。(肺塞栓と呼ばれます。)肺の動脈にひっかかったとしても、この状態もまた半分くらいの人が無症状と考えられておりますので、いわゆる『健康』『なにひとつ病気したことありません』なんて方にも、脚の静脈に生じる血栓がみられます。この文章を書いている私にも、そしてこの文章をお読みの方にも、飛行機に乗るなどすれば見られてしまいうる現象です。

 
右心房から左心房に流れてしまいやすい状態を持つ卵円孔開存にその血栓が流れつくと、右心房から左心房に血栓もすり抜け、左心房は左心室に続き、そして全身の動脈につながります。全身の動脈で血液の流れが多い部分が脳となりますので、脳梗塞につながることがおおくなってしまうようです。幸い脳への血管につまらなかったとしても、全身の別の血管にその血栓は運ばれ運ばれた先の臓器や部分の壊死などを起こしてしまいますので、肺の動脈とちがって症状がないでは済まされない状態がみられます。

血栓がなくとも、右心房からの血液が左心房に流れることで『片頭痛』の原因になるとも考えられており、実際片頭痛持ちの方にこの卵円孔開存が見られる確率は高くなります。脳梗塞や片頭痛の原因の一つとなっている身近な状態だということがわかってきました。困りました。

卵円孔開存をふさいでしまうカテーテル治療について

そこで登場した治療方法が、当院で行っているカテーテル(細い管)でそのすきまを閉じてしまう方法です。手術の正式名は経皮的卵円孔開存閉鎖術といいます。

 
細い管から、円盤状に広がる専用治療器具が、左心房から順番に広がり、このすきまを両方の部屋からはさみこみます。直後から効果を発揮する部分もありますが、半年くらいかけて心臓の壁と一体化するように取り込まれ、最終的に交通をなくしてしまうといわれています。

この治療法、脳梗塞を予防する効果にとても優れるとされています。

たとえばこのような報告があります。脳梗塞を起こしたことのある患者さんを対象にして、こういった器具を使った治療と、既存のお薬だけの治療と比べて 5年間くらい様子を見た報告がありました。(2017年) 器具をつかった治療を受けるとその期間で脳梗塞を再発した人はいませんでした。お薬だけの治療を受けた方には6%の方に脳梗塞の再発がみられました。
この結果は、お薬の治療だけでも脳梗塞の再発はそれほど多くないのかなという印象もあります。ところが脳梗塞の再発を予防するための血液サラサラの薬は、出血する病気には弱くなってしまう側面があります。

 

こういった治療器具の治療後は一定期間で血液サラサラの薬をやめることを検討できます。(続けた方がよい方もいらっしゃいますので、全員ではありません。) いろいろな理由で薬の治療を続けるのが難しい方もいらっしゃいますので、そういった方には朗報になります。

 
日本の治療認可基準では心臓血管のカテーテル治療に長けた医師が術者として認定される治療ですので、このすき間が明らかな方に対してカテーテルを静脈に通して治療の専用器具をおいてくる成功率は日本の報告で非常に高いです。(99.8%)

 

カテーテル卵円孔開存の閉鎖 (経皮的卵円孔開存閉鎖術) の合併症について

心臓の大きな部品が原因となる病気に対するカテーテルを使った治療は、どんどん広まっています。静脈を主な経路とするこの治療方法は大きな合併症の可能性が低い部類と考えられています。ただ割合が低いながら起こすと非常に深刻な合併症の報告もあり、治療を受ける時に乗り越えていただかなければいけない危険度としてお伝えします。

まずは不整脈ですが、治療器具は『心房』という部分に置かれますので、治療直後から心房をもとにした不整脈がみられることがあります。心房性不整脈はもともと心臓の機能が弱っている人でもない限り、いきなり生死にかかわるようなことはありません。1~2%程度と報告されています。また静脈にカテーテルという細い管をいれていく治療ですので管を入れる足の付け根の部分の出血がおきたり、静脈と伴走している動脈の方に交通を作ってしまったりするなど血管・出血系のトラブルが次いでみられました。1%未満とされています。心臓の周りの血管の治療に比べると比較的太いカテーテルを使いますので、専用治療器具の出し入れの際に空気を巻き込む可能性があります。多量の空気が左心房から動脈に流れると流れ着いた先に血栓と同じような影響を起こすことがありますが、1%未満の報告でした。

 
以上は治療直後の報告ですが、治療後1年目にかけてなど少し時間をおいて見られる合併症があります。今回紹介させていただいた治療は、多くの方に恩恵が得られる治療法として開発され発展した方法ですが、すきまの大きさや治療器具の大きさなどの個人差から、心臓の壁に部分的に強い圧をかける可能性があり圧がかかると徐々に心臓の壁がえぐれ、心臓の部屋同士、また大動脈といった心臓に近い部分にえぐれた部分が広がり交通を作ってしまうことがあります。潰瘍形成と呼ばれ、少ない報告ながら胸を開く手術での治療を必要とすることが多いです。こちらは他国の報告となりますが、0.018%程度に生じてしまったと報告されています。

  

ブレインハートチーム

恩恵を最大限受けていただけるように、また合併症が生じてもその影響を最小限にできるように、脳神経外科・脳神経内科・麻酔科・そして当科(循環器内科)の医師を中心にブレインハートチームという治療チームを構成しています。安心して治療を受けていただけるように、定期的なカンファレンスだけでなく、日々技術の向上・情報収集に取り組んでいます。特に最近は、このすきまを見つける検査の精度をあげる取り組みをおこなっています。

 
特に若くして脳梗塞を起こし、原因がよくわからないという方はいまだに多いと思います。
万一お読みいただいている方がそうであったり、身近な方がそうであったりしましたら、ぜひ当院にご相談をください。脳神経外科の専門外来でも、また循環器内科でしたら毎週火曜日午後の心臓低侵襲治療外来にお声がけください。

潜因性脳梗塞に対する経皮的卵円孔開存閉鎖術の手引き 第2版, 2023年 日本脳卒中学会 日本循環器学会 日本心血管インターベンション治療学会

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【文責 萩倉新】

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