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脳腫瘍

脳腫瘍

脳腫瘍には大きく分けて、髄外腫瘍と髄内腫瘍があり、脳腫瘍の種類により治療方針は大きくかわります。

定位生検

髄内(脳内)に発生する腫瘤性病変は、脳腫瘍であれば、神経膠腫(グリオーマ)、悪性リンパ腫、転移性脳腫瘍などが多く、稀なものを含めるとその種類は多数あります。また、腫瘍ではないもの(脱髄性疾患、炎症性疾患など)を含めるとさらに鑑別診断が広がります。 それぞれの経過やCT、MRIなどの画像検査によって診断を進めますが、最終診断については、組織を採取し、顕微鏡で組織検査を行うことで非常に有益な情報を得られます。
腫瘍の種類により、治療方針が異なります。手術を行ったほうがよいこともあれば、手術を行わず化学療法や放射線治療を行ったほうがよい場合もあります。
画像検査では診断に迷い、治療方針が大きく異なる場合には、生検術を行う必要があります。

手術は全身麻酔で行います。頭部を3点固定のピンを使って固定します。腫瘍の位置を正確に捉えるために、ナビゲーションをセッティングします。手術の創部以外に3箇所の小さな傷が出来ます。皮膚を3cm程度切開し、頭蓋骨に約1.5cmの穴をあけ、頭蓋骨の下にある硬膜という膜を切開します。ナビゲーションを用いて、腫瘍を採取できる針を挿入し、腫瘍を取ります。摘出した標本をすぐに組織診断(術中迅速診断)し、腫瘍がしっかりとれているか確認します。腫瘍がとれていたら皮膚を閉じて手術終了です。
最終的に診断が確定するまでには1週間前後時間がかかります。

神経膠腫 神経膠芽腫

経膠腫 (Glioma)は脳原発の腫瘍です。症状としては頭痛や痙攣を始め、脳内に腫瘍ができた箇所によって、麻痺、感覚障害、認知機能障害、視野障害など様々な症状が出現します。神経膠腫にも予後の良いものから悪いものまで様々な腫瘍がありますが、神経膠腫の中の40%を占める神経膠芽腫という腫瘍は5年生存率10%未満と極めて予後の悪い疾患です。神経膠芽腫の場合、摘出率が高ければ高いほど生命予後は改善するとされていますが、摘出により神経障害を合併する可能性もあり、最大限の摘出及び最小限の合併症が手術の目標とされます。しかし他の脳腫瘍と違い、神経膠腫は術中に正常脳と肉眼的に見分けることが難しい腫瘍です。神経膠芽腫以外の神経膠腫は特に見分けるのが難しいです。そのため、ナビゲーションシステムや、術中に特殊な光を当てると腫瘍と正常脳を判別できる5-ALAという薬剤、超音波手術器(CUSA/SONOPET)を用いながら摘出を行います。また、腫瘍の摘出に伴う合併症を避けるために神経モニタリング装置の併用や覚醒下手術を行うこともあります。摘出した腫瘍は病理検査や遺伝子検査を行い、その結果に応じた後療法を行います。当院では神経膠腫の手術、術後の化学療法(テモゾロミド、ベバシズマブ)、放射線治療、交流電磁腫瘍療法(NovoTTF-A100)について、大阪市立大学と連携しながら治療を行なっています。

転移性脳腫瘍

肺癌、消化器癌(胃・大腸)、乳癌、腎癌などが脳に転移してできた腫瘍を転移性脳腫瘍と呼びます。症状としては頭痛や痙攣を始め、脳内に腫瘍ができた箇所によって、麻痺、感覚障害、認知機能障害、視野障害など様々な症状が出現します。転移性脳腫瘍をきっかけに原発巣の癌が発覚することもしばしばあります。

転移性脳腫瘍の治療を考える際、以下のような条件が重要な点とされます。

  • 原発巣がある程度制御されており、3ヶ月以上の生命予後が期待できる
  • 生活の自立度(KPS)がある程度保たれている。

この条件があることが治療の前提となります。
ガイドラインで手術を行うことが推奨されているのは、

  • 生活自立度が良く、径3cm以上の単発病変で全摘出が望める場合
  • 機能予後、生命予後の改善が期待できる場合

一方で、複数の病変であったり、症状が強く生活が自立できない場合、原発巣の進行が早く予後が期待出来ない場合などは手術を行うことは勧められておらず、放射線治療や化学療法などの組み合わせで対応することとなります。
術後の放射線治療や化学療法については近隣の施設や原発巣に応じた院内の専門科へご紹介しています。

神経膠腫や転移性脳腫瘍の手術方法

全身麻酔で、手術台に仰臥位となり、頭部を3点固定のピンを使って固定します。手術の創部以外に3箇所の小さな傷が出来ます。腫瘍の場所に応じた範囲で皮膚を切開し、骨を露出します。骨は専用のドリルの様な器械で取り外し、脳を包む硬膜と呼ばれる膜を露出します。さらに、硬膜を切開すると、脳が露出されます。術中は、脳の肉眼的な特徴と、ナビゲーションという器械も用いて、腫瘍の位置を確認し、腫瘍の摘出を行っていきます。手術は専用の顕微鏡を用いた手術となります。必要に応じて術中迅速診断を行うこともあります。腫瘍が嚢胞(袋状の構造)を有し、腫瘍の摘出によって神経症状が悪化する可能性が高い場合は、腫瘍の摘出を行わず、嚢胞内にチューブを留置し内容液を排出できるようにするオンマイヤーリザーバーというデバイスを留置することもあります。摘出が終了すれば、十分止血を確認し手術を終了します。硬膜を縫合し、欠損している部分は人工硬膜で補強する場合もあります。さらに、頭蓋骨はチタンプレ-トでもとにもどし、ドレーンという管を皮下に挿入し、皮膚を縫合し手術を終了します。

下垂体腺腫

下垂体腺腫は、脳下垂体から発生する良性の脳腫瘍です。
脳下垂体は、脳の中心部下面から下方に垂れ下がり、頭蓋骨のくぼみ(トルコ鞍といいます)に入っている、ホルモン系の司令塔です。大きさは僅か0.5g程度のものですが、重要な役割を果たしています。脳下垂体は前葉と後葉とからなり、下垂体腺腫は前葉から発生します。前葉から分泌されるホルモンは、副腎皮質刺激ホルモン、甲状腺刺激ホルモン、成長ホルモン、男性ホルモン、女性ホルモン等で、後葉からは尿の量を減らす抗利尿法ホルモンが分泌されます。
下垂体腺腫にはホルモンを分泌するタイプ(機能性下垂体腺腫)とホルモンを分泌しない非機能性下垂体腺腫とがあります。非機能性下垂体腺腫は、大きくなることにより、下垂体機能を低下させ、さらに上方にある視神経を圧迫して症状を出します。具体的には、全身が怠くなったり、眼がみにくくなります。放置すると全盲にあります。
下垂体腺腫はトルコ鞍の中の脳下垂体に発生し、その上にある、脳と脳下垂体との間の膜(鞍隔膜といいます)を持ち上げながら、そして、この膜に包まれながら脳に向かって成長します。上には視神経(見るための神経)があり、この神経が圧迫されて症状が出ます。

症状が出るような大きな腫瘍の場合、手術による摘出が基本となります。摘出しきれない場合や、再発する場合放射線治療を追加することになります。

内視鏡下経鼻蝶形骨洞経由腫瘍摘出術

本手術では、鼻腔からアプローチします。
全身麻酔後、鼻腔に内視鏡を挿入し、鼻腔内の小さな骨を骨折させて、鼻の奥にある蝶形骨洞という副鼻腔に到達します。蝶形骨洞は解剖学的には丁度、下垂体があるトルコ鞍という場所の底にあたります。蝶形骨洞を経由して、腫瘍を露出させます。トルコ鞍の底の骨を約1.5cm程度あけ、硬膜を約1cm切開します。その部分から腫瘍を摘出します。下垂体腺腫は一般には柔らかい腫瘍であるため、吸引と掻き出すように腫瘍を摘出します。腫瘍摘出後、髄液の漏れを防止するために、腹壁から少し脂肪を採取し、これを腫瘍摘出腔に詰め、鼻腔の粘膜でふたをして髄液が漏れないようにします。最後に鼻腔からの出血がないことを確認し手術を終了します。

頭蓋底の中心部のくぼみ(トルコ鞍)に腫瘍を認めます。
トルコ鞍のすぐ上には視神経があり、腫瘍により圧迫され視力障害を来たしてしまいました。内視鏡下経鼻蝶形骨洞経由腫瘍摘出術をおこないました。

トルコ鞍底を開窓すると腫瘍がでてきます。

腫瘍を摘出しました。

腫瘍は摘出されています。

髄膜腫

脳は2枚の髄膜(クモ膜、硬膜)に包まれています。この膜から発生する腫瘍を髄膜腫と言います。多くは良性で、女性に多く発症し、亡くなった方(女性)を解剖すると、8%に見つかるといわれています。髄膜は脳の全周を包んでいますから、脳表の何処からでも発生します。髄膜腫は見つかればすぐ手術するわけではありません。何らかの症状がある場合には手術します。症状がなくても大きくなっている場合、小さくても深部にある場合には、症状がなくても手術することがあります。 髄膜腫の治療は外科的切除が第一選択になります。しかし腫瘍の部位、年齢、腫瘍の増殖速度により、定位放射線照射や経過観察を行うこともあります。また血管内治療、手術と定位放射線照射を組み合わせて治療を行う場合があります。 髄膜腫は発生する場所や周囲の血管、脳神経との関係により手術難易度はかわってきます。 脳の表面にできる髄膜腫は、比較的アプローチが容易であります。 頭蓋底に発生する髄膜腫は、頭蓋底手術と言われる特殊な知識、技術が必要となります。当院では大阪市立大学と連携し、手術を行っております。

頭頂部に傍矢状洞髄膜腫を認めます。

術後です。腫瘍は摘出されています。

聴神経腫瘍

聴神経腫瘍は、前庭神経から発生する良性脳腫瘍です。
前庭神経とは、平衡機能に関する神経であり、耳の奥(内耳)にあり、脳幹部からでると顔面神経と蝸牛神経(音を聴くための神経)と伴走しながら、内耳道(耳の奥にある骨のトンネル)入ります。この腫瘍は神経を包む鞘から発生する腫瘍です。
聴神経腫瘍の症状は、ふらつき、耳鳴り、聴力低下、聴力喪失、顔面のしびれ、小脳失調症の順位に症状を出します。時に水頭症を伴い、痴呆症状、視力障害を来します。また晩期になると脳幹の圧迫等により死に至ります。

腫瘍が大きい場合基本的には外科切除が必要です。手術では、腫瘍を直接見ながら切除しますので、もっとも確かな方法です。手術で全部とれれば、その時点で治癒したことになります。手術による合併症を十分に理解して受けて下さい。
小さい腫瘍によく行われており、効果があります。全身の状態の悪い人、高齢者によく行います。手術に比べて、直後の合併症は少なく、安全に行います。但し、放射線を照射しますので、後になって放射線の合併症が出る危険性があります。

手術は、外側後頭下到達法で行います。全身麻酔後、側臥位に近い体位となり、耳の後ろから後頚部にかけて皮膚切開を加え、筋肉をわけて後頭骨を出し、後頭骨を約3。5cmの幅で切除します。硬膜という硬い膜を切開し、小脳を正中に圧排しながら腫瘍を露出します。つぎに、内耳道を開放して、内耳道内の腫瘍を切除し、同時に顔面神経を露出します。ついで脳幹側で顔面神経を露出しながら腫瘍を切除し、顔面神経から、可能なかぎり腫瘍を切除します。顔面神経との癒着が強いときは腫瘍を残します。小脳、脳幹と付着している腫瘍被膜を可能であれば剥離しますが、癒着が強い場合摘出せず、腫瘍を残します。最後に、削った内耳道に腹壁脂肪をつめ、硬膜を密に閉鎖し、頭蓋骨を元に戻して創を閉鎖します。
手術中は、薄くなった顔面神経を見つけるために顔面神経刺激装置を使います。
顔面神経の機能を残すことがこの手術の最大のポイントです。顔面神経は薄く広がり、腫瘍の表面では眼で確認することはできません。電気刺激を行いながら確認して腫瘍を切除します。

右小脳橋角部に腫瘍を認めます。内耳道(聴神経や顔面神経などの通り道)が拡大しています。
また、小脳、脳幹が圧迫されています。

腫瘍の表面がみえています。

顔面神経を温存し、腫瘍をほとんど摘出しております。

顔面神経の近くの腫瘍は残存していますが、概ね腫瘍は摘出できております。

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