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ロービジョンについて

ロービジョンについて

田淵 ロービジョンというのは一体どういう定義なのでしょうか。
正条 「ロービジョン」の定義については、世界的に統一がされていないのが現状です。視覚障害という観点からは「失明」と「弱視」とに分けることができますがその基準もさまざまです。
WHO(世界保健機関)の基準だと、両眼視で矯正視力が0.05未満かそれに相当する視野障害(視野が10度以内)を「失明」とし、矯正視力が0.05~0.3未満を「弱視」としています。
ここでいう「弱視」については小児の機能的弱視(治療が可能なもの)ではなく、社会的弱視(福祉・教育分野)を意味し、この社会的弱視を「ロービジョン」と呼びます。
WHOの定義以外で、「ロービジョン」は視機能の低下があり、視覚的な補助具を使用したり保有している視機能を利用することができる者を表現することが適当であると考えられているようです。
田淵 この外来では、治療を行うという事ではないと思うのですが、いったいどのような事を行うのでしょうか。
加藤 眼科において、治療を行うのは医師の役割ですが、ロービジョン外来では、主に視能訓練士が中心となって取り組んでいます。
その内容の基準としてあるのは、視覚に障害を持った患者さんの保有する視機能の日常生活における活用についてサポートするもので、具体的には、文字を拡大して読むことのできる「拡大鏡」の選定、まぶしさを抑え見たいもののコントラストを向上させることができると言われている「遮光眼鏡」の選定、安全に歩行するための「歩行訓練」、福祉サービスなどの「情報提供」など中心に行っています。
田淵 対象患者さんの原因疾患について教えて下さい。
正条 視覚障害の原因疾患の上位に位置する、「緑内障」、「糖尿病網膜症」、「網膜色素変性症」、「黄斑変性」を始め、「強度近視」、「脳外科的疾患」などの疾患を持つ患者さんが当院のロービジョン外来を受けていただいた方では大きな割合を占めています。
田淵 正条視能訓練士は歩行訓練士になるためのトレーニングを2年間、大阪のライトハウスで受けて来られたわけですが、歩行訓練士というのは国家資格ではないですよね。
一体どんな事が出来る人の事をこのような名前で呼ぶのでしょうか。
正条 「歩行訓練士」は厚生労働省委託の研修を受けて認定を得た者という位置づけです。
呼び方としては、「視覚障害者日常生活訓練等指導者(員)」などもあります。
「歩行訓練士」という名前では「歩行」に関する内容しか担当できないようなイメージを持ちますが、本来は視覚に障害を持った方に対する日常生活動作全般的な指導を行う立場となります。
その内容としては、前述した視覚に障害を持った方の歩行に関する指導(歩行訓練)を始め、パソコン操作に関する指導、家事などの日常生活動作、音声を中心とした種々の便利グッズや機器などの紹介や指導、点字の指導などを中心に行う職種です。
田淵 ロービジョンの通常のトレーニングに加えて、歩行訓練を加える事ができるのがツカザキ病院眼科ロービジョン外来の最大の特徴ですが、そのメリットについて教えて頂けますか。
正条

視覚に障害を持つことによる、日常生活の困難として代表的なものは「読み書き」と「歩行(移動)」であると考えます。
もちろんその他の日常生活活動においても大きな困難となることもありますが、提示した2つの困難については可能な限り早期に対応することが必要であると考えています。

「読み書き」に関しては、まずはレンズを中心とした光学的な補助具の選定を行い、さらに読み書きをするときに便利な補助具を紹介し、使い方などを指導することが一般的に多く、担当するのは眼科の医師や視能訓練士です。
「歩行(移動)」に関する困難への対応は一般的には福祉の分野として、視覚障害者自立訓練施設やNPO団体などに所属する「歩行訓練士」がそれぞれの現場で行うことが多いです。また、訓練の内容にもよりますが、様々な技術があり基礎的な能力も必要なため、多くの時間を要することになります。
当院では、視能訓練士である自分が「歩行訓練士」として眼科外来において「歩行訓練」の導入を行っております。
先述したように、「歩行訓練」は多くの技術があり習得には時間と基礎能力を必要としますので、通常一般の眼科外来では取り組むことが難しいです。当院の取り組み方としましては、比較的簡単な歩行技術については眼科外来でサポートし、より高度な技術が必要な患者さんに関しては専門の訓練施設やサポート団体の紹介をすることにしています。

当院で行っている「歩行訓練」は、晴眼者とともに歩行するための「ヒューマンガイドテクニック(ガイドヘルプ)」、単独歩行のための「白杖の選定と購入サポート」、「各場面における白杖の持ち方」「基礎的な白杖操作について」、自宅や既知の限られた屋内を移動するための「屋内歩行技術」などです。内容と習得状況により、複数回にわたって行うこともあります。

[ 当院のロービジョンケアの特色である歩行訓練 ]
田淵 ツカザキ病院に常設している、ロービジョンケアに必要ないろいろな備品について教えて下さい。
正条 主に光学的補助具と言われる、文字を拡大して読むための「拡大鏡」や、遠方の物や景色などを拡大して見るための「単眼鏡」、まぶしさや物の輪郭をはっきりさせる効果のある「遮光眼鏡」については見本となるものをある程度揃えています。
「拡大鏡」については、世間に出回っているものは数多くあると思いますが、当院では特定のメーカーにしぼって見本をもとに紹介させていただいています。
[ 当科で準備している様々な視覚補助装置 ]
正条 また、より高機能な拡大鏡として「拡大読書器」というモニターに見たい物を映して拡大する機器も紹介程度に1台設置しておりますが、最新の機種などについては希望に応じて、各取扱い業者に依頼して病院内で体験会を行っています。
視覚に障害を持つ方の安全な移動のために使われる「白杖」についても少量ですが、見本をおいていますので実際にどのようなものかを触っていただき、購入サポートをしています。
[ 当科で準備している様々な遮光眼鏡 ]

ケアについて

田淵 ツカザキ病院眼科でロービジョンケアを行っているのは正条視能訓練士ですが、そのケアを受けるためにはどうしたら良いでしょうか。
正条 まずは当院の医師の診察を受けていただきます。
その上で見えにくさによって日常生活でお困りのことがあれば担当医師に相談し、「ロービジョン外来」を希望していただくことになります。また、受診中の患者さんにおいては希望に応じて、もしくは主治医から紹介していただくこともあります。
田淵 ロービジョンケアというのは、だいたいどの程度時間がかかるものでしょうか。
また、何回ぐらい通うものなのでしょうか。
正条 患者さんのご希望によりさまざまですが、1回の所要時間を90分程度として実施しています。
通常、患者さんの視機能低下に伴う日常生活について聞き取りを行い、問題点を整理して優先順位をつけて開始します。
よって、希望する内容が多くない方の場合は1回で終わることもありますし、多くの問題と対応がある方の場合は複数回来院していただくこともあります。
田淵 ロービジョンケアにかかる費用というのはどの程度なのでしょうか。
外来費用というのもありますし、視覚補助具の購入にかかる費用というものもありますね。
自治体の補助というものもありますから、その点はややこしいですね。
正条 当院では認定を受けた医師の元で行っていることもあり、多少の受診にかかる費用負担が発生する場合があります。
視覚補助具のこととしては、「身体障害者手帳」を申請し、所持している方については眼科で選定した「矯正眼鏡(度数が入った通常の眼鏡)」や「遮光眼鏡(眼疾患があり、まぶしさを感じている方が対象)」、または「白杖」について自治体からの補助を受けることができます。
上限額が設定されていますが、上限額以内であれば1割程度の負担で購入することがきます。
「拡大鏡」については自治体の補助の対象となっていないため自己負担になりますが、当院では紹介させていただいた拡大鏡については購入のサポートも行っております。
田淵 正条視能訓練士が、現在ロービジョンケアにおいて最も興味を持って取り組んでいるテーマについて教えて下さい。
正条 ルーペなどの「読み書き」を対象とした補助具についてはもちろん大切ですが、現在は「歩行(移動)」の困難に対するサポートについて重要視しています。
外来を受診される視覚に障害を持つ患者さんが日常生活において安全に移動することができるように、「ヒューマンガイドテクニック」という晴眼者の肘をかりて歩行する技術を、眼科外来において紹介していきたいと思っております。
この「ヒューマンガイドテクニック」技術は視覚に障害を持つ方だけでなく、そのご家族や支援する方々にも知っていただかなければ成立しない技術ですが、視覚障害を受障し歩行(移動)に困難を生じた場合、早期に導入すべき歩行手段と考えております。
田淵 ツカザキ病院眼科ロービジョン外来の責任者として未来像を教えて下さい。
正条 ロービジョン外来と言っても、視覚に障害のある方すべての方の支援ができるわけではありません。
時には患者さんの期待に応えることができず無力を感じることも多いです。
しかし、当院の眼科外来は医療のみならず、視覚による患者さんの日常生活についてまで考えることのできる眼科としてこれからも取り組みたいと思っています。
そのためには、自分だけでなく他の視能訓練士も同じスタンスでロービジョン外来を担ってもらえるよう共に勉強し、また医師や他のメディカルスタッフとも連携できるような体制を強化していきたいと考えております。
理想的な形としては、視覚障害を受障し、今までできていたことができなくなることを様々な手段を使って少しでも減らすことができるように、また、社会参加の制限がある場合はできる限り早期に他の専門機関との連携により「視覚障害リハビリテーション」として対応できるようにしていきたいです。
田淵 どうもありがとうございました。
ロービジョン・ケアの適応については、どうぞお気軽に当科を受診下さい。
診察を希望される方へ

まず、通常の外来を初診下さい。
その後、担当医の指示によりロービジョン外来への予約を取る流れになります。外来の日程についてはその都度調整させて頂きます。

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