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ドライアイについて

ドライアイという病気は、眼科の病気の中でも広く知れ渡っていますね。
診断基準をまず説明して頂けますか。

診断基準が改定されて、
①眼不快感・視機能異常などの自覚症状
②BUT検査での異常
の2項目を有するものとなっています。

BUT検査について教えて下さい。

BUT検査は眼表面の涙液がどれくらいの時間で乱れを生じるかを測る検査で、診察の際に行います。フルオレセインという色素を目の表面につけて観察しながら行いますが、これによって角膜や結膜の状態がよりよく把握できます。

ドライアイと診断された場合にはどのような治療がありますか。

まず基本は、涙液を補うところから始めます。一番眼表面にやさしい防腐剤フリーのソフトサンティアが基本です。これだけでもずいぶん楽になる人が多いです。 炎症や感染によって涙の質が不安定になっている方も多いので、その原因にあわせて治療していくと涙は安定していきます。 それでも難しい場合は、少ない涙でも溜まり易いような環境を作るために、プラグで涙点を塞いだり、結膜にたるみが出て眼表面に涙が溜まらない状態になっているのを改善するために、結膜を整えたりするなど処置が必要な場合もあります。 涙に含まれる油が少ない人には、ホットパックや軟膏も効果的です。

[ドライアイの患者さんの角膜染色写真]

乾燥に起因する角膜表面の細かなでこぼこに貯留した色素が蛍光照明によって発光することで、角膜表面の状態がはっきりします。
左図では角膜表面はつるっとしていて涙が安定しているのがわかります。中央図や右図では染まっている箇所に凹凸がみられ、涙が不安定な場所は、はじけてしまい涙が乗りません。そうして傷になっていき痛みなどの自覚症状につながっていきます。

なるほど、点眼治療が効かなかった場合、次の段階の治療もあるということですね。
最近になって、薬効作用が異なった種類の点眼剤が複数使用できるようになりましたが、解説して頂けますか。

ヒアルロン酸の点眼薬は、主に保湿です。水分を含んでとどめやすくするという役割です。
そのため、涙の多い人にはとても良いですが、涙の少ない人には逆に自分の涙をとられてしまい逆効果の場合もあります。
ムチンを増やす点眼薬は、水分を眼表面にくっつきやすくするという役割です。涙の少ない人には人工涙液の補いが少ないと、ムチンの濃度が増えすぎてしまい目やにのような涙になってしまうこともあります。涙液を増やす点眼薬は効く人と効かない人がいますが、涙液の分泌を増やしてくれます。

点眼剤の種類がいくつもあって、その組み合わせには専門的な診断と治療が必要だと感じますね。
ツカザキ病院眼科でも点眼剤が複数使用できるようになったのと合わせてドライアイ外来を専門外来として立ち上げた経緯があります。

点眼剤を用いた治療の際に、注意しないといけないのが薬剤性の角膜障害ですね。
特にドライアイ患者さんの場合は、点眼治療がかえって問題を引き起こしやすいという事があると思うのですが、いかがでしょうか。

それは診療をしていてとても強く感じます。なので、ソフトサンティアという防腐剤フリーの点眼薬がまず基本なのですが、どうしても治療薬にひかれてしまい、ソフトサンティアの点眼を怠る人が多く、再度診察で説明することが多いです。先ほどでもありましたが、涙の少ない人は特にそれが起こってしまいがちで注意が必要です。

防腐剤にも種類がありますし、それらが入っていない角膜治療剤を時と場合によって使用していくという事になりますね。点眼剤の薬効成分以外にも、防腐剤の種類によっても違いがあって、実際の臨床での使用の組み合わせは相当に複雑ですね。

本当に組み合わせは複雑です。 アレルギーは最近特に問題となることが多いですので、使ってみて、反応を見て丁寧に選んでいくのがやはり大切だと思います。

ドライアイになる患者さんの中でシェーグレン症候群という全身的な疾患が背景にある患者さんがおられますね。

涙液量が少ない人には口が渇かないか尋ねます。口の渇きが認められる人には採血検査でシェーグレン症候群に特徴的な抗体が上がっていないかも調べています。 シェーグレン症候群の方は特に重症のドライアイを伴う場合が多く、炎症も絡んでいることが多いので、単純なドライアイの治療だけでは難渋することが多いです。

抗がん剤を使用されておられる患者さんの中にも、顕著なドライアイ症状が出現する場合がありますね。

涙液が減少する方もいますし、角膜の細胞の再生が鈍ることがあるということも報告されており、適切な点眼で重症化を回避することが大切だと考えています。

ドライアイ外来に通っておられる患者さんの通院の頻度というのはどれぐらいでしょうか。

落ち着いてくれば、1~6ヶ月に一度くらいのペースで診察しています。 ドライアイの重症の方は、目を開けられないくらいの状態になり、生活の支障も出やすいため、落ち着くまでは短いスパンで診察し、楽に生活が出来るレベルまで早く持っていきたいと思っています。

また、ドライアイ診療と同様に日本の眼科学会が世界に発信している疾患で、マイボーム腺機能不全(MGD)という病気がありますね。この疾患について説明していただけますか。

これの定義ですが、さまざまな原因によってマイボーム腺の機能に異常をきたした状態であり、慢性の眼不快感を伴うとされています。マイボーム腺は、涙の一番上層にある油層の形成に重要な役割を担っています。この油層があることで涙は蒸発しにくく安定するのです。それがMGDになると油層がうまく作れず、涙が不安定になります。

[マイボーム腺梗塞の所見]

Aでは白矢印の先にPouting と呼ばれるマイボーム腺開口部における分泌物の異常貯留を認めます。Bのオレンジ色の円でマークされた部分の白い点状物の散在は、マイボーム腺開口部に油が固形化している状態で、マイボーム腺機能の低下を考えます。

なるほど、MGDも相当眼表面の状態に影響しますね。となるとドライアイなのかMGDなのかは専門性のある眼科医がきちんと診断しないと難しいですね。ドライアイとMGDの併発もあるのでしょうか。

ほとんどの方がそうではないかと思うくらい多いと思います。 ドライアイも年齢とともに涙液の分泌は減っていくので、悪化傾向になります。マイボーム腺の油の分泌も主に性ホルモンに依存しているといわれていますが、特に更年期を迎えた後の女性は悪化傾向にあります。 併発というよりもむしろ互いに影響しあっているように思います。ドライアイが悪くなれば、瞼のこすれから炎症が常にある状態になり、それによってマイボーム腺機能も悪くなり、油の分泌が悪くなる。そうすれば涙の油層がうまく作れなくなり涙が不安定になってドライアイは悪化する。といったように悪いサイクルが始まります。

MGDの治療法としてはどんなものがありますか。

MGDでは、油の性質が悪くなり、正常の方より固まりやすくなっているといわれています。そのため油が詰まってだんだんマイボーム腺が働かなくなってきていると考えられています。なので、その詰まった油を溶かすためのホットパックが基本です。 10分以上暖かいタオルを眼の上に乗せることを3ヶ月ほど毎日続けると違ってきます。

眼表面の病気は進行が早く、再発もしやすいというイメージがありますが、その点はいかがでしょうか。

崩れていくと階段をかけ降りるように悪化していきます。また、ある程度は自分の涙で何とかしようと、身体も反応するのですが、それでも追いつかなくなって初めて症状に出るので、症状が出てくるまでの期間は実は結構長いと考えています。症状が出てくるまで長い期間蓄積されているので、改善するのにも時間がかかることがほとんどです。治療にはある程度の根気がいります。お肌の手入れをするように、目のお手入れをしているという感覚で、根気よく目のケアにも気を配って頂けると、このパソコン無しではやっていけない世の中でもやっていけると考えています。

となると、ドライアイやMGDの診断がついた事のある患者さんには、いわゆるかかりつけの眼科医の存在が重要な気がします。それと、きちんと画像データとして病気の経過が記録に残っているかも重要ですね。

そう思います。 いろんな傾向を蓄積していくと注意すべき点はそれぞれに違ってくるので、年単位で傾向を把握することが大切だと思います。

ドライアイやMGDに対する専門外来というのは、派手さはないですが、すごく丁寧な診療が必要ですね。

全般的な診療にくらべて、専門外来は様々な面からひとつの疾患を診察するので、とても時間と根気が必要だと感じます。ただ、どうしてもドライアイやMGDはいずれの人も無関係ではいられない疾患だと思うので、患者さんに上手に付き合ってもらうようになることで生活をより快適なものにできればと思っています。

どうもありがとうございました。

流涙でお悩みの方は、どうぞご気軽に当科を受診ください。
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