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眼内レンズの選択について

眼内レンズの選択について。解説:河村 淳哉 ツカザキ病院眼科 医師 聞き手:田淵
田淵 白内障に使用するレンズは多種多様になってきていて、生活様式などいった患者さんの希望に沿ったレンズを選択できるようになってきましたね。
河村 そうですね。最近では、多焦点レンズ(後で説明いたします。)が選定医療に含まれるようになり、白内障患者様の術後の視機能をより高く追い求めることができる時代になってきました。
田淵 今回は、当院ではどのようなレンズを使用しているのかを説明していただければと思います。
河村 はい。初めに、白内障手術の大多数に採用されている単焦点レンズについて説明させていただきます。単焦点レンズは読んで字のごとく一つの点に焦点を合わせるレンズですが、単に単焦点レンズと言っても色々な機能が付加されていて、着色レンズや非球面レンズなどといった付加価値が付いたものが現在主流となっています。
田淵 そうですね。白内障のレンズも進化が進み、より術後の視機能の向上を追い求めることでたどり着いた代表例ですね。
河村 まず、着色レンズについてですが、白内障の原因部位である水晶体は加齢に伴って少しずつ黄色く濁ってきます。日々の生活の中で黄色い水晶体から入ってきた光に慣れているので、手術で無色透明なレンズを入れてしまうと光の入る量が多くなり、日中は眩しく感じることがあります。また、青色の光は波長が長く網膜に有害な事が知られており、加齢黄斑変性症を助長してしまう可能性が示唆されています。黄色い着色の眼内レンズの方がより生理的な水晶体に近い状態と言え、手術後の視界の違和感も少なくなります。

図1
上:理想的なレンズ
下:実際の球面レンズ

田淵 では次に非球面レンズはどのようなものなのでしょうか?
河村 はい。まず球面レンズとは球体の一部を切り取ったドームのような構造をしています。このような構造のレンズには球面収差という光のバラつきが生じてしまいます。完全な半球状だとしてもレンズの周囲に行くほど屈折率が高まり、光が一点に集中することはありません。(図1)
これは眼の表面の角膜にも言えることで、角膜が完全に綺麗な半球状の場合にも、+0.27Dの球面収差が生まれています。それを補正するために球面ではないレンズ(非球面レンズ)が開発されました。この球面収差を補正するレンズを用いることで光を一点に集めることができ、術後により高解像な視界を得る事ができます。(図2)ただ、球面収差を補正する量の多いレンズを使用すると、レンズのズレや傾きによって、却って余分な収差が生じてしまいます。移植したレンズにズレや傾きが生じるリスクとしては、水晶体を包んでいる袋が脆弱であること、水晶体を支えているチン小帯という組織が損傷していることなど、患者様によってそれぞれ異なっています。

a.

a.球面レンズを使用した場合の見え方

b.

b.非球面レンズを使用した場合の見え方

(引用:不二門 尚ら:眼内レンズの偏芯が網膜像に与える影響 あたらしい眼科31:123-132. 2014)

図3

田淵 球面収差は、患者さまの視機能を追い求めるには欠かせないですね。球面レンズは普段の手術ではあまり使わないのですか?
河村 いえ、チン小帯が断裂してしまっている症例では、通常の方法では眼内にレンズを挿入する事ができません。そのような場合、「眼内レンズ強膜内固定術」(図3)が選択されます。この時には僅かなズレや傾きを許容できる球面レンズの方を使用します。

図4
左:1ピースレンズ
右:3ピースレンズ

田淵 患者さんの状況にあったレンズを選択するというわけですね。他にはどんなレンズがありますか?
河村 はい。極度に近視が強い場合は通常のレンズの度数で準備できない場合があるため、極度近視に対応した度数を有するレンズを使用する場合があります(MA60MA®・AN6MA®など)。また、切開創を小さく抑えるため、従来の光学部と支持部で素材を分けた3ピース型(図4右、X-70S®・ZA9003®など)と言われるものではなく、光学部と支持部を同素材にした1ピース型のレンズ(図4左)を使用することもよくあります。
田淵 そうですね。また、それ以外でも、術前検査で乱視が強い患者様の場合はトーリックレンズを使用しますね。
河村 そうですね。単焦点レンズにも乱視を矯正するトーリックレンズというものがあります。これは山内先生の記事にもありますが、手術前の検査にて乱視の程度を調べ、患者様それぞれにあったレンズを選択させていただきます。(ZCV®・SN6AT®など)
田淵 白内障とともに他の眼疾患がある場合に、白内障の手術と併せて手術を施行する例もありますが、その場合にも使用するレンズは変わってきますよね。
河村 はい。白内障とともに網膜や硝子体に病変が存在する場合、白内障の手術とともに硝子体手術を行う場合があります。その場合、手術を安全に行うなどの理由で通常のレンズは光学部が約6.0mmのものですが、7.0mmと少し大きなレンズ(X-70S®など)を使用する場合があります。
田淵 保険適応内では、低加入度数分節眼内レンズであるレンティス・コンフォート®というレンズも2019年4月から発売が開始されましたよね。
河村 そうですね。レンティス・コンフォート®は1.5Dという低加入度(近くを見るために追加で付加する度数)とすることで焦点深度を拡張しています。焦点深度拡張とは、従来型の多焦点眼内レンズでは焦点を遠方と近方に振り分けていましたが、焦点を分けるのではなく、焦点の合う範囲を遠くから中間距離にかけて広げることで有水晶体眼に近い、違和感の少ない見え方になります。遠く~中間距離にかけての見え方に強い反面、近方では眼鏡による矯正が必要となる場合があります。
田淵 そうですね。私は実は、レンティス・コンフォートレンズを基本にしてレンズ選択をしているのですが、ご好評いただいています。つい最近になって乱視度数も設定がされるようになって、適応もさらに広がりましたが、全員の患者さんに使えるとは限らないのでしょうか。
河村 合併眼疾患やライフスタイルによっては選択できない場合もありますので、希望される方は担当医師に希望の旨を伝えていただければと思います。
田淵 最後に多焦点レンズについてですが、当院では厚生労働省認可レンズを10年以上前から使用してきましたが、先進医療保険が使えることになって特にその認知度は広がったんですが、今は使えなくなりましたね。
河村 多焦点眼内レンズは2020年4月1日より、多焦点レンズによる白内障手術は「先進医療」から外れ、「選定療養(費用の一部を健康保険併用)」と「自由診療」を選択する事になりました。選定療養による多焦点レンズの手術では、手術にかかる費用は単焦点レンズと同じく健康保険適応となりますが、多焦点レンズにかかる代金は別途自己負担となります。多焦点レンズの種類は従来通りの「二焦点レンズ」と「三焦点レンズ」を選択でき、いずれも国内認可されたレンズに限られます。自由診療では国内認可のレンズを選択できるのはもちろんのこと、国内未承認の海外製のレンズやより高性能なオーダーメードレンズも選択できます。こちらに関しても、山内先生の記事もありますのでそちらも参考にしていただければと思います。
田淵 多焦点レンズも近年開発が進み、多焦点の焦点深度拡張型レンズも開発されていています。眼内レンズの進化が進み、ますます各々の患者さまにあったレンズを選択できる時代になってくることでしょう。
河村先生、今回は眼内レンズの選択について説明していただきありございます。
河村 こちらこそありがとうございました。
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