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網膜分離症

網膜分離症(近視性牽引黄斑症)解説:白神智貴

網膜分離症(近視性牽引黄斑症)とは?

  • 網膜分離症という病気について、おおまかに説明してもらえますか。 患者さんにはちょっと聞きなれない病気だと思いますが、 私達眼科医には比較的有名な病気ですね。

強度近視眼では眼球の後部だけが局所的に後方へプクっとふくれたようないびつな形をしていることが多く、網膜の前面に膜が張り付いて網膜を前方へひっぱることがあります。その結果、網膜に負担がかかり網膜が前後に裂けて(分離して)しまうことがあり、これを網膜分離といいます。網膜分離がさらに進行すると網膜が奥の組織から剥がれて黄斑剥離という状態になります。網膜の中心部はうすくなっていて弱いので、ここにあながあいてしまうと黄斑円孔網膜剥離と呼ばれる治癒が困難な状態になります。これらの一連の状態をまとめて網膜分離症(近視性牽引黄斑症)といいます。

症状は?

  • なるほど。網膜分離症は、強度近視の方に生じる病気で、進行すると治りにくい網膜剥離につながるという重大な病気なんですね。となると、患者さんはどんな症状に気をつけたら良いのでしょうか?

人間の眼はよくカメラにたとえられます。眼の中の網膜という組織はカメラで言うとフィルムに当たり、網膜に投影された像をもとに情報が頭の中に伝わっていきます。網膜の中心付近を黄斑といい、文字を読んだり、細かいものを認識したりするのに特に大切な役割をしています。網膜分離症では進行してくると黄斑が障害され、ゆがみ(変視)や、光を感じない部分(暗点)を自覚するようになり視力が低下します。通常は進行がゆっくりなため気付かないうちに進行し、眼科に行って初めて指摘されることもあります。ただ、状況によっては数週間で進行することもあります。

治療しないという選択肢を取るとどうなりますか?

視野の中央が非常にみにくくなりますし、細かい作業や字を読むことは難しくなっていきます。黄斑円孔網膜剥離になると視力が極端に下がり閉鎖は困難になってしまいます。網膜剥離がひろがると、ほとんど失明に近い状態になります。進行速度は個人差があります

治療法はどんなものがありますか?

現在のところ、治療は硝子体手術になります。この手術で改善が得られない場合は、眼球の形状を外側から変化させる手術(黄斑プロンベ設置術や強膜短縮術)を追加することがあります。

  • なかなか大変そうですけど、手術はいつ受けるといいですか?

手術のタイミングに関しては施設によって基準が様々です。手術後に視力が低下することもありますので、当院では基本的に、初期の網膜分離症の状態で、視力低下やゆがみなどの自覚症状がまったくない場合は積極的に手術を勧めることはありません。視力低下やゆがみなどを自覚されるようになると手術をお勧めします。黄斑剥離まで進行している場合は、視力低下やゆがみを自覚されることがほとんどですし、放置していると難治の黄斑円孔網膜剥離になってしまうことから手術を強くお勧めします。黄斑円孔網膜剥離にまで進行している場合は、放置により剥離がひろがり失明してしまいますので手術をしなければなりません。しかし、残念ながら視力改善は得られないことが多いです。

  • 一体どんな手術なのか教えて頂けますか?

手術は眼だけに麻酔を行う局所麻酔で行います。
50歳以上の方に硝子体手術を行うと白内障が進む可能性が高いため、原則として白内障手術を同時に行います。
網膜分離症に対する硝子体手術は、眼に3-4か所針を刺した後、針穴を通して眼の中の硝子体という組織をきれいに除去します。その後、網膜の前面に張り付いた膜を除去し、さらに網膜の最表層の内境界膜という膜を剥離することで網膜を伸びやすくします。手術時間は約30分から90分程度です。黄斑円孔網膜剥離にまで進行していますと特殊な操作を行ったり、眼内に空気やガスを注入し、もっと時間がかかることもあります。また手術準備や後片付けに30分程度かかります。
網膜の前面の膜や内境界膜を安全に剥離するためにブリリアントブルーGなど特殊な補助薬剤を使用することがあります。これは国内未承認ですが多くの眼科で手術時に利用されており、また、病院の倫理委員会でも利用の承認を得ております。

  • 手術でできることと、治せないことがあると思うのですが、その点を教えて頂けますか?

近視が強い影響で網膜や脈絡膜がやせている網脈絡膜萎縮と呼ばれる状態になっていると治療できないことがあります。また、黄斑円孔網膜剥離まで進行している場合や、手術中に黄斑円孔といって網膜の中心部に孔が生じた(あるいは生じたことが否定できない)場合などは、眼内に空気やガスを入れて手術を終了することがあります。その場合は、術後に一定期間(3日から、 場合によっては1か月)うつ伏せ姿勢が必要になります。
手術を受けたとしても分離症や剥離はすぐに改善するわけではなく、ゆっくり時間をかけて改善します。1年以上かかることもあります。また、手術を受け分離症が改善したからといって視力が改善するとはかぎりません。
黄斑円孔網膜剥離にまで進行している場合、網膜剥離の治癒率は約90%、黄斑円孔の閉鎖率は約70%程度で、あまり治癒率が高いといえません。懸命の治療(再々の手術やうつ伏せ姿勢)によっても治癒しないことがあります。
黄斑円孔網膜剥離へ進行するのを防ぐための手術ではありますが、中心部と膜との癒着が強いために手術中に黄斑円孔が生じることや、問題なく終了しても術後に黄斑円孔が生じることがあります(5%程度)。術後に黄斑円孔が生じた場合は再手術が必要になります。

視力は回復しますか?

手術を受けられた方全員の視力が回復するわけではありません。
回復の早い人なら手術後1週間で視力改善が体感できますが、通常は視力が改善するのに数ヶ月程度かかります。最終的に視力が上がるのは60-70%前後、20-30%前後の方が変化なしで、5%程度の方は手術がうまくいったにもかかわらず視力が下がってしまいます。
このように視力が上がることは多いですが、まったく正常にまで回復することはまれで、多くの場合視力の障害や暗点は残ります。また近視による目の弱り(萎縮)の程度によって回復は異なります。

まとめ

  • 最後にまとめていただけますか?

網膜分離症(近視性牽引黄斑症)は近視の方でたびたびみかける疾患です。しかし、放置しておくと失明につながる可能性も十分考えられる怖い病気です。網膜分離症に対する手術は進行を抑え網膜を元の状態に近づける手術です。しかし元通りにはなりませんし視力が悪化することもあります。手術の限界・欠点やリスクをよく理解し、よく納得してから手術を受けるようにして下さい。

診察を希望される方へ

散瞳検査(車の運転はできません)が必須です。可能であれば午前中の受診をお勧めします。
診療の専門性が高いため、時間には余裕を持ってご来院ください。
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