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角膜疾患

「角膜疾患」解説:片上千加子 ツカザキ病院眼科顧問、角膜疾患領域チーフドクター 聞き手:田淵

角膜疾患について

田淵 角膜治療と言うと、角膜移植は一般的にも有名ですが、たとえばどのような疾患が角膜移植の対象になるんでしょうか。
片上 角膜は、透明で、表面が平滑で、形状にいびつさがないことが良好な視力の保持に重要です。
角膜移植が必要になるのは、透明性や角膜形状が損なわれた病態です。すなわち、角膜の透明性を維持するうえで重要な役割をもつ角膜内皮細胞が減少し角膜に浮腫(むくみ)・混濁(にごり)を生じる水疱性角膜症、外傷や角膜炎後の角膜混濁や角膜穿孔、角膜形状の異常である円錐角膜の重症のものなどが角膜移植の対象疾患となります。
田淵 対象疾患は様々あるんですね。一番数が多いとなるとどの疾患なんでしょうか。
片上 やはり最も多いのは水疱性角膜症ですね。次に角膜混濁です。
田淵 角膜移植にもいくつか方法があって、ここ10年で急速に進歩していますよね。
片上 角膜移植の方法には以前から全層角膜移植と表層角膜移植がありましたが、水疱性角膜症に対しては、全層角膜移植を行う以外方法がありませんでした。しかし、近年、病巣部分のみを治療する角膜パーツ移植の概念の広がりとともに、水疱性角膜症に対する角膜内皮移植が可能となり、日本でもここ数年急速に普及してきました。さらに最近は、再生医学的治療の進歩がめざましいです。

治療について

田淵 現在も発展を継続していることは素晴らしい事ですよね。
ツカザキ病院眼科で提供できる治療法となるといかがでしょうか。
片上 角膜移植は、全層移植、表層移植、内皮移植すべて当院で可能です。角膜移植は角膜の提供がなければ行えませんが、兵庫アイバンクはじめ国内のアイバンクからの提供角膜はもちろんのこと、米国のアイバンクからの輸入角膜も用いています。
いずれも、安全性に問題なく、質的な差異もありません。
[ 当院における全層角膜移植手術の1例 ]

水疱性角膜症症例に対して手術を施行し、良好な経過を得た。

田淵 片上先生にツカザキ眼科で角膜専門外来を指導してもらうようになって5年ぐらいでしょうか。 大変な進歩で驚いています。また、角膜内皮移植は術後合併症の観点からも安全性が高まったので、 手術対象も広がっているのでしょうか。
片上 全層角膜移植は角膜の中央約7mm径を、提供していただいたドナー角膜に置き換える手術で、ドナー角膜を全周縫合しなければなりません。
一方、角膜内皮移植は、ドナー角膜を約1/5の厚さに薄く切った内皮移植片を小さな傷口から眼内に挿入して角膜の内側に接着させる方法です。移植片が薄いため、全層角膜移植に比べ術後の拒絶反応は格段に少なく、角膜縫合による合併症もなく、安全性の高い手術といえます。比較的初期の水疱性角膜症が適応とされていましたが、やや進行した水疱性角膜症にも適応が広がりつつあります。
[ 当院における角膜内皮移植手術の1例 ]

Fucks内皮ジストロフィーの方の手術症例。術前に白く濁っていた角膜が術後には透明性を取り戻している。

田淵 角膜疾患と言えば、やはり皆さんに知って頂きたいのは、角膜感染症の恐ろしさでしょうか。
コンタクトレンズの装用方法の誤りによる角膜感染症というのは、私達の病院でも入院加療する必要がある重症の患者さんが比較的珍しくない程おられる印象ですが。
片上 コンタクトレンズの誤使用による角膜感染症の患者さんは当院でもよく受診されます。
2weekタイプのソフトコンタクトレンズ使用者に多いです。重症化するのは、緑膿菌による角膜炎とアカントアメーバ角膜炎です。緑膿菌は進行が早いですが、感受性のある抗菌薬を使えば反応も早く比較的速やかに沈静化します。しかし角膜混濁が残ってしまうこともよくあります。
アカントアメーバ角膜炎は、アメーバに対する特効薬がなく、病巣掻爬と抗真菌薬や消毒薬の点眼を行います。初期に適切な治療を行えば混濁を残さず治癒させることも可能ですが、診断が遅れ進行すると治癒に3ヶ月以上を要し、混濁を残してしまい視力が著しく低下することも少なくありません。
昔、ソフトコンタクトレンズの煮沸消毒を行っていた時代には、このような感染症は稀でしたが、現在のようなコールド滅菌が行われるようになり、感染症が増加しました。
コンタクトレンズの使用法をよく守り、眼に異常があれば速やかに専門医を受診することが大切です。
[ 当院で治療したコンタクトレンズ使用が原因のアカントアメーバ角膜炎の2例 ]

いずれの症例も20歳代の若い患者さんで、治療はほぼ成功したが、両症例ともに角膜混濁は残存したままである。

田淵 角膜ヘルペスによる角膜感染症もメジャーな疾患だと思いますが、ゾビラックス軟膏の登場によって以前に比べて重篤な状態にはなかなかならなくなっているのでしょうか?
私の印象では、それでもなかなか難しい状況の患者さんもおられる気がしますが。
片上 角膜ヘルペスの病型は、上皮型、実質型、内皮型に分けられます。上皮型にはゾビラックス眼軟膏が有効で、適切な使用により比較的速やかに治癒させることができます。
しかし、実質型、内皮型に対しては、ゾビラックス眼軟膏のみならず、ステロイド薬の併用も必要で、治療は難しく、進行すると角膜の混濁を残してしまうことも多いです。
また、ヘルペスはしばしば再発し、上皮型の再発にはゾビラックス眼軟膏で対処できますが、実質型、内皮型の再発は、適切な治療がなされないと、再発のたびに角膜混濁が増強し視力が低下していきます。
したがって、油断せずに、定期的に専門医の診察を受けることが重要です。
田淵 また、鉄工所などのお仕事をされておられる方で、防護メガネを使用せずに業務を行っている方で角膜障害がひどくなっておられる方も受診されますね。
片上 防護眼鏡をせずに溶接を行った後の紫外線角膜炎や、角膜に鉄片などの異物が飛入する角膜異物ですね。
紫外線角膜炎は、びまん性表層性角膜炎を生じ、眼痛、異物感、羞明が強いですが、点眼薬や眼軟膏で1~2日で治癒します。
角膜異物は、異物を除去しなければなりません。角膜の深層にある異物の除去にはとくに注意が必要で、手術室で行う場合もあります。異物除去後の感染にも注意を払う必要があります。
田淵 片上先生は、白目の皮が黒目の中心に伸びてくる翼状片と呼ばれる疾患の手術療法についても指導的立場でご活躍されておられますが、少しこの疾患について説明して頂けますか。
片上 翼状片は、結膜(いわゆる白目)の細胞が紫外線などの影響を受けて、徐々に角膜(黒目)のほうに伸展してくる疾患です。
紫外線を浴びることの多い戸外での仕事やスポーツをされる方に多いです。
進行はゆっくりですが、翼状片が増大し視力に影響を及ぼす場合などは手術適応となります。
手術自体は難しくはないのですが、術後、再発を生じやすいことが問題です。
とくに若い方ほど再発しやすい傾向があります。再発し再手術、再再発と、何度も再発を繰りかえすと、そのたびに手術は難しくなり、また、結膜の癒着を生じて眼の動きが制限されてしまう合併症を起こすこともあります。
したがって、1回目に、可能な限り再発を防止する方法で手術を行うことが重要です。
田淵 なるほど、1回目の手術が非常に重要になってくるんですね。
となると特に再発傾向が強いとされる若年者の方でこの疾患にお悩みの方は角膜専門医が所属する眼科に一度受診される事をお勧めします。
[ 当院で手術した翼状片症例(白矢印が病変部)]

いずれの症例も20歳代の若い患者さんで、治療はほぼ成功したが、両症例ともに角膜混濁は残存したままである。

田淵 またツカザキ病院では、片上先生ご指導のもと、エキシマレーザーを用いた角膜混濁除去術を積極的に 行っていますが、この治療法について説明して頂けますでしょうか。
片上 顆粒状角膜ジストロフィー、格子状角膜ジストロフィー、帯状角膜変性などの疾患では、角膜表層に混濁を生じて視力低下をきたします。
このような角膜表層の混濁に対しては、角膜表層にエキシマレーザーを照射して混濁を除去します。
エキシマレーザーは、近視矯正のレーシック手術にも使用されるレーザーですが、当院では保険適用の治療的角膜切除術(PTK)に用いています。
エキシマレーザーによる切除面は非常に平滑なため、メスを用いた用手的角膜表層切除とは比べものにならないくらい、術後の視力改善は良好です。
[ 当院でおこなったエキシマレーザー(PTK, 医療保険適用)治療の一例 ]

角膜変性症の患者さんに対して治療を行った。拡大写真で明らかな点状の混濁がレーザー治療によってほぼ消失した。

田淵 なるほど、適応があれば非常に効果的な治療なんですね。
一方で薬物を用いた用手法と呼ばれる術式もありますので、適応を見定めながらツカザキ病院では使い分けているということですね。この治療の費用面はどうなんでしょうか。
片上 PTKの手術代は約10万円で、保険適用ですので、たとえば3割負担の方は約3万円を負担していただくことになります。
田淵 現在ツカザキ病院眼科の角膜チームがテーマとしている臨床研究の対象はどんなものか教えて下さい。
片上 全層角膜移植、角膜内皮移植、治療的角膜移植術、PTKの手術成績、翼状片の手術成績、翼状片の再発予防、角膜ヘルペスの再発予防、角膜感染症の治療、免疫抑制剤点眼薬の効果、角膜内皮疾患に対する薬物療法、角膜内皮移植の組織学的研究など、最新の検査機器を駆使して進めています。
田淵 ツカザキ病院眼科の角膜治療を立ち上げから指導して頂いている片上先生ですが、当科の角膜外来の未来像をお聞かせ頂けるでしょうか。
片上 最先端の検査、治療を施行し、最高水準の医療が可能となることが目標です。
若手医師が、研鑽を積みつつ、診療をサポートしてくれるパラメディカルのスタッフ、近隣の医師との連携を緊密に、良好な人間関係を維持し、人間的に幅広く何事にもモチベーションを高く維持できる医師として活躍してくれることを期待しています。
田淵 どうもありがとうございました。
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