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流涙について

はじめに

< 流涙って? >

涙液は、目の表面を乾燥から防いだり、感染から目を保護したり、酸素やビタミンなどを供給したり、といった役割を持った液体です。 涙液は、主に上眼瞼の奥にある涙腺という組織から常に分泌され、10%は蒸発し、90%は涙道を通って鼻からノドへと排出されます。この流れが無意識の間に起きています。

原因は?

涙が多くて困る、という症状を流涙症と言いますが、原因は様々です。「涙が多い」と訴える患者さんに検査をしてみると、むしろ目が乾きやすいドライアイであったということも稀ではありません。目が一定以上に乾くと、それが刺激となって一時的に涙が多く分泌されるからです(これを反射性分泌と言います)。また、白内障で見え方にかすみを感じるようになると、実際に涙が多いわけではないにもかかわらず「涙が多い」と錯覚する場合もあります。
しかしながら、代表的な原因はなんといっても、涙道での涙の通過が障害されてしまう「涙道閉塞」です。

療法は?

涙道閉塞の治療には、主に ①涙管チューブ挿入術 と ②涙嚢鼻腔吻合術(るいのうびくうふんごうじゅつ) があります。

①涙管チューブ挿入術

閉塞してしまった涙道を再開通させ、ポリウレタンでできた「涙管チューブ」を涙道に留置します。以前は手探りで行っていた治療でしたが、近年、涙道内視鏡という涙道内を見るカメラが開発され、当科ではこれを用いて閉塞部を確認しながら治療を行っています。 涙管チューブは約2か月後に抜きますが、それまでの間もほとんど違和感なく、通常通りの日常生活を行うことができます。

②涙嚢鼻腔吻合術(るいのうびくうふんごうじゅつ)

涙道の中でも、鼻涙管という部分が強く閉塞してしまって、上述の涙管チューブ挿入術では対応できない症例や、涙嚢(るいのう)という部分に炎症を起こしている症例が主に適応となります。涙道と鼻腔の間に、新たな涙の通り道を作る手術なのですが、涙道と鼻腔の間には薄い骨の壁がありますので、この骨に窓を開ける必要があります。鼻の付け根のあたりの皮膚を切開して、そこから手術を行う鼻外法と、鼻の中から内視鏡を用いて行う鼻内法に大別されますが、当科では可能な限り鼻内法で治療を行っています。鼻外法と鼻内法では術後成績に違いはありませんが、鼻内法は顔面に切開のあとを残さないというメリットがあります。重篤な心・呼吸器疾患などのリスクのない方は、原則として全身麻酔で手術を行います。 手術時間は通常30分~1時間程度です。

小児の流涙症

生まれたときに、鼻涙管の鼻への出口(鼻涙管開口部)が膜状に閉塞した状態だと、流涙やメヤニの原因となりますが、これを先天鼻涙管閉塞と呼びます。従来は、ブジーと呼ばれる針金状の器具を涙点から手探りで挿入し、膜状の閉塞を破るという治療が広く行われてきました。患児を押さえつけて行う必要があるのですが、暴れられると治療が危険で困難なものとなります。そのため、なるべく小さいうちにというのが常識だったのですが、最近では考え方が少し変わってきています。というのは、1歳までに90%近くが自然治癒するということが分かってきたため、あえて不確実な手探りの手技を行うことが疑問視されるようになったのです。統一的な見解というのはまだありませんが、当科では1歳半までは自然治癒を期待して経過観察し、自然治癒しなかった症例に対しては全身麻酔下で涙道内視鏡を用いて確実に治療することを基本方針としています。

本日は、ツカザキ病院眼科の涙治療の責任者である
今村先生にお話しを伺います。
田淵 涙が多くて困ると訴えられる方は多いですね。しかし、流涙の専門家でなければ、適切な対応が難しい面もあるのが実状です。「なみだ」でお困りの方に対する治療は可能なのでしょうか?
今村 ドライアイはその言葉とともに一般にも認知され、積極的に治療されていますが、逆に涙が多いという訴えに対しては「少ないよりマシ」などと切り捨てともいえるごまかしで済まされていることが多いと聞きます。しかし、原因にもよりますが、多くの場合は治療が可能で、喜ばれる方が非常に多いです。
田淵 「なみだがよく出る」という症状でも、原因となる病気が色々あるのですか?
今村 その通りです。涙は上のまぶたの奥にある涙腺という組織で作られ、常時少しずつ分泌されていますが、その大半は目頭にある涙点という小さな穴から涙道という管を通って鼻のほうに排出されるようになっています。その涙道が閉塞してしまうことによって、涙が多いという症状が出ていることが多いです。逆にドライアイの症状として涙が多いと訴える方もいます。その他、さかまつ毛や結膜弛緩症(白目表面の粘膜のたるみ)、白内障などで涙が多いと自覚する方もいます。
田淵 なるほど。流涙の原因が何であるかによって、治療方法が異なるのですね。
今村 そうですね。一人で悩むより専門医の診察を受けることが必要です。治療は早い方が良い場合が多いですし。
田淵 となると、まず、流涙の原因となる疾患を診断する技術が必要になるのですね。
今村 原因となる疾患を見極めるには知識と経験が必要です。たとえば涙道の閉塞なら涙道のどの部位が閉塞しているのかを診断する必要があります。

まずは診断

田淵 どんな方法や検査で診断するのでしょうか?
今村 涙道の閉塞に関して、外来ではまず通水検査という検査を行います。これは、先の丸まった特殊な針を涙点から挿入し、水を送るという手軽な検査です。水がスムーズに鼻まで流れなければどこかが閉塞していることを意味します。さらに針の感触によって、大体どこが閉塞しているのかを知ることができます。また、涙道の中の様子を切らずに見ることのできる「涙道内視鏡」によって、確実な閉塞部位診断が可能です。
田淵 診断がついたら、どんな治療法があるのでしょうか?
今村 涙道の閉塞に対する治療法として代表的なのは、「涙管チューブ挿入術」と「涙嚢鼻腔吻合術(DCR)」という二つの手術です。

治療法

田淵 涙道閉塞を治療するかどうかの判断は何を基準に行うのでしょうか?また、絶対に手術した方がよい状態というのはあるのでしょうか?
今村 目の表面の涙のたまり具合を調べて多くたまっているかどうか、また、涙の分泌量がどうか、などを総合的に判断します。たとえば、涙道閉塞にドライアイを合併している場合があり、涙道閉塞を治療することによって逆に目が乾くという症状で悩むことになる可能性があるため、判断は慎重でなくてはなりません。つまり、治療しないほうが良い場合もあるということです。涙嚢炎といって、涙の通り道の涙嚢という部分に、細菌による炎症を起こしている場合には、手術による治療が望まれます。
田淵 睫毛乱生(さかまつ毛)治療は、どのような方法でしょうか?日帰りでできますか?
今村 軽度であれば、原因となっているさかまつ毛の毛根を破壊する「睫毛電気分解」という治療が有効です。
局所麻酔をしてから極細の針をまつ毛の毛根に差し込み、通電することによって脱毛します。もちろん日帰りでできます。
ただし、しつこくまつ毛が伸びてくるケースもあり、何度か治療しないといけない場合があることも説明させていただきます。
重症の場合は、眼瞼手術の専門医によるlid splitという手術が有効です。
田淵 ツカザキ病院眼科には眼瞼専門の清水好恵先生がいますから、医師同士連携して診療を行っているのですね。
結膜弛緩症治療は、どのような方法でしょうか?日帰りでできますか?
今村

主に、

  1. たるんだ結膜を切り取って縫い合わせる方法
  2. バイポーラという止血用の血管凝固器具を利用して、たるんだ結膜に帯状にわざと軽くやけどの痕を作り、たるみを取る方法

などがあり、症例によって治療法を選択します。日帰り手術で、術後しばらく点眼治療を行います。

[結膜弛緩症 手術前 前眼部写真]

矢印部がたるんだ結膜。このたるんだ結膜によって目の表面が不整となり、流涙症状の原因となる。

[結膜弛緩症 手術後 前眼部写真 ]

左の術前写真の同一部の術後写真。矢印の部分の結膜弛緩が改善されている。

田淵 涙管チューブ挿入術は、どのような治療でしょうか?日帰りでできますか?
術後診察の流れについても教えて下さい。
今村

涙管チューブ挿入術は、閉塞している部分を開通させ、涙道にポリウレタン製のチューブを留置するもので、切ったり縫ったりはしません。以前は、術者の手探りで行われていた治療でしたが、近年は先に述べた涙道内視鏡を利用して、より確実にチューブを留置することができるようになりました。
よく勘違いされるのですが、チューブはホースの役目を果たすものではありません。チューブの中を涙が流れていくのではなく、一定期間チューブを留置することによって涙道内部がふたたび閉塞するのを防ぐというのが目的です。
手術当日から洗顔・洗髪をはじめ、日常生活はほぼ問題なく行うことができます。チューブによる違和感を訴える方は少なく、あっても軽い場合がほとんどです。

また、手術は日帰りで行っており、手術時間は数分~20分程度です。

術後は1~3週間ごとに通院していただき、2か月後にチューブを抜いています。

田淵 涙嚢鼻腔吻合術(DCR)は、どのような治療でしょうか?日帰りでできますか?
術後診察の流れについても教えて下さい。
今村 涙道の中の涙嚢という部位と、鼻の奥との間に、新たな涙の通り道を作る手術です。涙嚢と鼻の間には薄い骨の壁がありますので、その骨の壁に穴をあけて、バイパスを作ることによって、スムーズに涙が鼻のほうに流れるようにします。
当院では鼻の中から手術を行う鼻内法という手術方法を採用していますので、顔面に切開のあとを残すのを避けることができます。
日帰り手術を行っている施設もありますが、術後の鼻血の管理のため、当院では現在3~4日間の入院を原則としています。また、全身麻酔のリスクのない患者さんには全身麻酔で手術をおこなっています。
退院後は1~3週間ごとに通院していただき、2か月後に手術の際留置したチューブを抜いています。
田淵 治療効果や治療成績を教えて下さい。
今村

涙道手術の治療効果はすぐにはっきり現れる場合が多いです。

涙管チューブ挿入術は、術後の経過が良好であった方は90%程度で、残りの10%程度の方は再度涙管チューブ挿入術を行うか、涙嚢鼻腔吻合術(DCR)などの他の治療が必要となります。
DCRはここ数年で97%は術後の経過が良好で、3%に再発がありましたが、再手術後の経過は良好です。

田淵 新生児の流涙やメヤニの原因として、先天鼻涙管閉塞というものが知られていますが、これはどのようなものですか?また治療法は?
今村

先天鼻涙管閉塞は新生児の6~20%にみられると言われ、頻度の高いものです。涙が鼻へ流れ出る部分(鼻涙管開口部)が膜状に閉鎖しているため、流涙やメヤニの症状をきたします。
ただし、1歳までに9割程度の自然治癒が見込まれるため、はじめは経過観察を行います。当院では、1歳半まで経過観察を行い、自然治癒しなかった場合に治療に踏み切ります。

全身麻酔で、先に述べた涙道内視鏡を用いて、閉鎖した部分を確実に開放させており、最も安全で確実な方法と考えられます。手術時間は10分以内のことがほとんどで、日帰り入院で行っています。

田淵 先生の臨床上の現在のテーマは何でしょうか?
今村 自分の診断・治療能力を向上させ、より患者さんへの負担を軽減することはもちろんですが、原因不明の流涙症も実際には多く存在しており、その原因を探って臨床に役立たせることを念頭に置いて診療にあたっています。現在は臨床研究として、手術法による自覚症状の変化を心理物理学的に定量分析するとともに、前眼部OCTという装置を使って、客観的に涙液量を精密に計測する試みを行っています。
[前眼部OCTによる涙液量計測]

ツカザキ病院眼科では、従来計測が難しかった涙の貯留量を前眼部OCTを用いる事で、精密に計測し、涙道治療の効果判定に用いています。

田淵 ツカザキ病院眼科の涙道治療責任者として未来像を教えて下さい。
今村 近年、眼科の取り扱う分野の中でも放置されていた感のある涙道診療が変革の時代に入り、進歩を見せています。世界でも多くの医師が新たな治療に取り組んでおり、今では想像もつかないような治療法が現れることは間違いありません。当院ではこの流れに遅れることのないのはもちろんのこと、当院から有益な情報を発信して世界的に貢献できるようになることを願っております。
流涙でお悩みの方は、どうぞご気軽に当科を受診ください。
診察を希望される方へ

受付は朝8時から夕方5時までですが、涙道検査等での時間を考慮して、出来るだけ早い時間帯での受診をお勧めします。
セカンドオピニオンにも対応致します。

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