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加齢黄斑変性について

はじめに

どんな病気?

加齢黄斑変性は、年齢による変化や光障害、喫煙や食事、遺伝的素因などにより網膜の中心部の黄斑といわれる部分が障害されて、見え方が悪くなる病気です。 日本における有病率は50歳以上の人口の約1.3%(日本の全人口で約70万人)といわれており、年々増加する傾向にあります。

網膜は眼内に入ってきた光を電気信号に変換する役割を担っています。目という器官において最も中核的な部位といえます。 黄斑部は網膜の中心部分の半径3ミリ程度の狭い領域ですが、ただ中心に位置しているというだけでなく、細かいものを見分けたり、色を識別したりといった目の機能のうち最も大事な機能がほぼ黄斑部だけに存在します。 このことにより、黄斑部が障害されるとその他の網膜(黄斑部より圧倒的に広範囲)が無事であっても視力がほとんど出なくなります。

分類は?

加齢黄斑変性には前駆病変、萎縮型、滲出型があります。前駆病変では網膜に軽い異常を認め、ゆがみを自覚することがあります。萎縮型ではゆっくりと網膜が障害されていきます。効果的な治療はありません。軽い視力低下に留まることが多いですが時に視力がかなり低下することもあります。滲出型は脈絡膜新生血管という異常血管を生じる状態で、ここから血液成分が漏れ出して網膜がむくみ、ゆがみなどの症状が出ます。活動性が高くなると出血がおこり、中心が暗く見えにくくなり、視力が低下します。

治療は?

治療は主に滲出型に対して行います。硝子体に薬剤を注射してCNVを弱らせていく方法(抗VEGF剤硝子体注射)と、点滴とレーザーを組み合わせて新生血管を詰まらせる方法(光線力学的療法=PDT)があります。病態によっては、これらを併用して行います。また前駆病変の状態の時には予防的治療も有効です。

当科では

視力予後の向上と治療効果の維持、さらに生活の質(QOL)の向上を目的として診療を行っています。加齢黄斑変性は数回の治療で視力や病態が改善することもありますが、治療効果が出にくい症例や、頻回の追加治療が必要となる症例もあり、症例ごとの個別化診療に努めています。

加齢黄斑変性について

田淵 加齢黄斑変性という病気は、どのような病気なのでしょうか?
山内 加齢黄斑変性は網膜の中心に位置する黄斑が傷んでしまう病気です。原因としては、遺伝的な素因をもとに、生活習慣(食事や喫煙)や高血圧、光刺激など長年の積み重ねにより発症します。
田淵 加齢黄斑変性になると、どんな症状があるのでしょうか?
山内

加齢黄斑変性では網膜の中心部の黄斑が障害されます。黄斑は網膜の中心に位置し、視力や色覚といった目の機能のうち特に大事な部分を担っています。
加齢黄斑変性の初期症状で特によく見られるのはゆがみです。これは黄斑部網膜に水がたまることにより腫れて、網膜自体が変形することによります。悪化してくると、中心部が暗くなったり、中心部が見えなくなり視力が下がってきます。
進行すると完全に失明することもあります。ちなみに今回の話で使う「視力」という言葉は全て「矯正視力」のことを言います、したがって「視力が下がる」ということは「眼鏡やらコンタクトレンズなどを使用しても見にくい状態になる」ことを意味します。

加齢黄斑変性の病態には、大きくわけると前駆病変、萎縮型、滲出型があり、病態によって進行具合は様々です。
前駆病変ではほとんど視力に影響はなく、多少の歪みを自覚する程度です。
萎縮型はゆっくりと網膜の働きが弱くなります。なんとなく見えにくくなりますが、軽い視力低下に留まることが多いです。
滲出型では網膜の下の層である脈絡膜から異常血管(新生血管)が発生してきます。新生血管は未熟な血管であることが多く、血液成分が漏れ出すことで網膜がむくみ、歪みの症状が強くなります。
新生血管の活動性が高くなると、網膜下で出血がおこり中心が見えにくくなります。出血が黄斑に及ぶと、大きく視力が低下して日常生活に影響がでます。
網膜下出血が硝子体に溶け出して硝子体出血になると、ほとんど見えなくなります。

[左図の上は正常の眼底像。
 左図の下は上の図に対応した網膜断層像(OCT像)]

網膜の中でも視力にとって最も重要な中心部は中心窩(黄斑小窩)と呼ばれ、中心窩を中心としたもう少し広い範囲を黄斑部と呼ぶ。網膜は10層からなる透明な組織であるが、OCTによりそれぞれの層が断面で把握できるようになった。網膜10層の最下層は網膜色素上皮と呼ばれ、この部位だけが不透明であるため網膜写真を取るとこの色素上皮の色調が写真に写っている。さらにその下に脈絡膜と呼ばれる構造がある。

[右図の上は加齢黄斑変性進出型の典型症例眼底写真。
右図の下は上の図に対応した網膜断層像(OCT像)]

OCT像で、網膜出血とその黄斑部側に隆起した網膜色素上皮を認めている。この網膜色素上皮の部位は脈絡膜新生血管の破綻による出血により色素上皮剥離と呼ばれる状態を示している。

山内 加齢黄斑変性は50歳以上の人におこる病気ですが、若い人でも歪みや変視を起こす病気があります。代表例として中心性漿液性脈絡網膜症という病気があります。この病気は視力低下に至らず自然に治ることが多いですが、再発・再燃を繰り返して見えにくくなることがありますし、長期経過で加齢黄斑変性に移行していく場合もあります。
また、強い近視、目の炎症や怪我に伴う黄斑変性、遺伝性の変性など根本的な治療が難しい病気もあります。糖尿病や網膜の血管が詰まる病気などでも網膜がむくむことがあり、似たような症状を起こします。その他にも黄斑前膜や黄斑円孔など手術が必となる病気との鑑別も重要です。
田淵 なるほど、随分と加齢黄斑変性と予後と治療方針が違うにも関わらず、類縁していると言われる疾患がいっぱいあるのですね。となると、鑑別するための診断が重要になりますね。
山内 患者さんの年齢だけでなく、これまでの経過や細かい症状、進行具合なども大事ですので、まずは詳細な問診が必要となります。その後に鑑別に必要な検査を行っていきます。

まずは診断

田淵 ツカザキ病院眼科では他の病気との鑑別や加齢黄斑変性の診断のために、どのような検査を行いますか?
山内 まずは一般的な視力検査などの後に、眼底検査や網膜断層検査を行います。診察や検査は瞳孔を開いて行いますので、当日は車の運転を控えてください。
また加齢黄斑変性は目の奥の血管の病気なので、病態把握や治療方法選択のために2種類の造影剤(インドシアニングリーンおよびフルオレサイト)を用いた蛍光眼底造影検査を予約で行います。
[加齢黄斑変性診療で用いる眼底検査]
左図:カラー眼底写真、中図:FAG(フルオレサイト眼底造影写真)、右図:ICG(インドシアニングリーン眼底造影写真)

眼底写真は病変の全体像把握、FAGは網膜色素上皮より上層の病変の把握、ICGは脈絡膜層の病変の把握に用いる。3種類の検査は互いに相補的で、判断は総合的に行われる。

治療法

田淵 加齢黄斑変性の治療には、どんな種類があるのですか?
山内

治療は新生血管を抑える治療と、予防的な治療に分かれます。

滲出型に対しては新生血管を抑える治療が必要になります。主な治療としては、硝子体に薬剤を注射して新生血管を弱らせていく方法(抗VEGF剤硝子体注射)と、点滴とレーザーを組み合わせて新生血管を詰まらせる方法(光線力学的療法=PDT)があります。病態によっては、これらの治療方法を組み合わせて行う場合もあります。その他、網膜下出血や硝子体出血に対しては、出血部位や出血量に応じて硝子体ガス注入術や硝子体手術などを行います。

予防的治療は前駆病変がある場合や、片目が加齢黄斑変性の時にもう片目に発症することを予防することが目的になります。具体的には禁煙、強い光を避ける、サプリメントの摂取の3点をお勧めしています。このうち最も効果が高いのが禁煙で、喫煙者はできる限り禁煙することをお勧めしています。強い光というのは、紫外線だけでなく可視光線(目に見える光)も悪影響があり、サングラスの仕様をお勧めしています。サプリメントについてはAREDSというアメリカでの大規模研究で有用性が確かめられています。当科ではAREDSに準拠したサプリメントをお勧めしています。

田淵

抗VEGF剤とはちょっと耳慣れない言葉で、難しい感じです。
どんな薬剤なのか、治療には入院が必要なのかどうか、術後の処置はどのようなものであるか、注意する点等について、少し詳しく説明して下さい。

山内 VEGFというのは、血管の発生や血管の維持においてとても重要な血管内皮細胞増殖因子というタンパク質のことで、正常な環境では血管を助けるために働いています。しかし、病気の環境ではむくみや炎症、出血など悪い変化を起こす新生血管を生成するように作用します。
現在、保険適応のある抗VEGF剤には3種類(マクジェン、ルセンティス、アイリーア)があり、薬剤ごとに作用や効果が違います。全体では目の中でVEGFの働きを抑制し、新生血管を弱らせ、悪い変化が進行するのを防ぎます。

基本的には通院治療のみで、点眼麻酔後に手術室で行います。念入りに皮膚や目の消毒をして、白目(結膜)から硝子体に注射します。ほとんど痛みはなく、1~2分くらいで終了します。
注射後は基本的に通常の生活(洗顔や洗髪も可能)で問題ありません。

[現在加齢黄斑変性治療目的で厚労省に認可をされている抗VEGF剤は3種類]

治療薬の特性と個々の症例の状態を合わせて考慮し、最善の選択を行います。

田淵 PDTレーザーという治療についても、同じようにご説明頂けますか。
清水 眼球は光を透過する組織なので、眼内にレーザー光を照射して異常部位を破壊するというのは以前より行われている治療でした。ただ、黄斑部は視機能に非常に重要な部分ですのでここをレーザーで破壊するというのは、現実的な治療ではありませんでした。PDTでは、単独では網膜を傷害しないような弱いレーザー光と光感受性物質の点滴を組み合わせることでその問題をクリアしています。実際には、ビスダインという光感受性物質を前腕から点滴します。すると、ビスダインは新生血管に付着し、ビスダインが付着した血管に光を当てると、光反応により血管内に血栓が作られ、選択的に新生血管を詰まらせます。
治療は日帰りでも行えますが、治療後に3~4日間くらいの生活制限(日光や強い光を避ける)が必要となります。
PDT治療後に特別な処置は必要ありません。また抗VEGF剤硝子体注射と併用して行うことが多く、その場合は硝子体注射後の翌日か翌々日にPDTを行います。
[PDTレーザー治療]

実際の施術は上図のように座位でアゴ台にアゴとおでこを固定した状態で、顕微鏡を用いて行います。痛みは特になく、短時間で終了します。写真では説明のために室内は明るいですが、実際は暗室で行います。

田淵 さらに、硝子体ガス注入術や硝子体手術とはどのような治療ですか?
山内 どちらの治療も、網膜下出血や硝子体出血など、目の中の出血に対して行う治療で、術後に数日間はうつ伏せなどの体位制限が必要となります。当科では入院で治療を行うことが多いです。術後は見え方が良くなり視界も広がりますが、出血によるダメージが大きい場合には視力は回復しません。
網膜下出血が黄斑に及ぶと、出血の塊(血腫)によって黄斑が傷んでしまいます。出血が起きてから14日以上経過すると血腫が移動しにくくなるので、診断後は速やかに血腫を移動させる必要があります。硝子体ガス注入術は、硝子体に気体を注入して圧迫することで、血腫を黄斑から移動させる治療です。治療後の体位制限や、眼圧上昇などの合併症も考慮のうえ、入院で治療を行っています。硝子体注射後と同じく数日間の抗生剤点眼が必要です。
硝子体出血が起こると目の中に光が入りにくくなり、ほとんど見えなくなります。硝子体手術は、出血で濁った硝子体を取り除き、きれいな状態にすることで目の中に光を入りやすくします。手術中に黄斑血腫を認める場合は、血腫を溶かす薬剤(t-PA)を用いたり、気体を注入したりします。
[黄斑下血腫の発症から治療過程]
左図はOCT像、右図は眼底写真、赤矢印が黄斑下血腫、青矢印が硝子体内のSF6ガス像

血腫発症した直後に治療を開始(受診日に抗VEGF剤硝子体注射、その翌日にSF6ガス硝子体注入を施行。2か月後には視力はほぼ改善した。

田淵 ちょっと根本的な質問になりますが、だいたいにおいて加齢黄斑変性は治る病気なのでしょうか?
山内 残念ながら現状では完治することは不可能ですが、早期発見や様々な治療の組み合わせで視力を改善・維持することが可能です。落ち着いた後も再発することがあり、定期的な通院は欠かせません。
田淵 治らないとなると心配なのはやはり、加齢黄斑変性になると失明してしまうのではないかという事だと思います。
山内 真っ暗になることはごく稀です。片目だけの場合は歩行や日常生活にあまり影響しないこともあります。しかし、片目でも進行した場合や、両目で発症した場合は視力低下により車の運転やテレビ観賞、読書・書字などが難しくなります。
田淵 加齢黄斑変性を片眼に発症している場合は、大丈夫な方の眼についてはどう考えておけばよいのでしょうか?
山内 3~4割の方は両目に発症する危険性があります。片目は問題なくても徐々に進行していく場合があるので、定期的に検査を行う必要があります。また片目が発症している方は予防の重要性が特に高くなると考えます。
田淵 症状が出てなくて大丈夫だと思う方の眼についても経過観察が必要であるという事は重要ですね。
それにしてもこの疾患はなかなかに、複雑で丁寧な診療が必要ですね。
それに診療設備が揃ってないとできない医療ですね。
山内 加齢黄斑変性は病型や病態によって治療方法や予後がかわります。当然ながら正確な診断が必要ですし、迅速な対応も不可欠です。治療においても、硝子体注射よりもPDTの方が効果的な場合や、注射治療だけでは効果が得られにくい場合もあります。
おっしゃるとおり、診断も治療も詳細な検査の上で成り立ちますから、最新の医療を継続的に行うためには診療機器を最新のものに更新し続けることが必要で、さらに迅速な対応のためにはスタッフを数多く抱えておくことも同時に必要になりますので、この疾患に対する医療は集約型と呼ばれる高密度医療体制が前提だと思います。
[ツカザキ病院眼科・眼底検査室]

当科ではフルスペック眼底カメラ(TRC-50DX)と検査目的の異なる3種類のOCT(3D-OCT2000、DRI-OCT-1、スペクトラリス)を中心として、HRA2、MAIA、LSFG-NAVI、F10、Optos等の診断装置を症例に応じて使い分けて加齢黄斑変性の診療を行っています。これら全ての検査の正当性は国家資格である視能訓練士(CO,Certified Orthoptist)が行う事で初めて生まれます。

田淵 長い間通院を続けないといけない病気である事は間違いないと思うのですが、そのあたりについて先生のお考えをお聞かせ下さい。
山内 残念ながら加齢黄斑変性は現時点で根治できる病気ではありません。しかし、正確に診断し、適切な時期に最適の治療を行えば、現状を維持することが可能です。
また、治療効果が得られず失明に近い状態になっても、経過観察が必要でなくなることはありません。ツカザキ病院眼科ではローヴィジョン外来を受診していただき、日常生活での質の向上を考えています。
田淵 注射治療には費用がかかりますよね。
山内 抗VEGF剤硝子体注射や光線力学的療法は保険適応がありますが、どちらも薬剤が高額です。特に硝子体注射は作用が1~2ヶ月程度で、病状次第では複数回の追加治療が必要となるため、自己負担額が大きくなります。
田淵 治療の質を落とさない事を大前提として、いろいろと新しい取り組みによって治療費を少しでも低くするという努力が行われている訳ですね。
山内 注射治療は生活制限が少なく、合併症も起こりにくいので簡便に思われがちですが、治療費の高騰や受診回数など様々な負担を患者さんに強いることになります。漫然と注射回数が増えれば合併症の危険性も増えますし、VEGFの作用を遮ることで網膜が傷んでくる危険性もあります。場合によっては薬剤変更やPDTを併用するなど、現存の治療方法を有効利用する必要があります。
田淵 ツカザキ病院眼科は、臨床研究を大事な業務としている訳ですが、その意義をお聞かせ下さい。
山内 臨床において重要なことは、現存の治療方法の中で最適なものを患者さんに提供し、最善の結果に導くことです。そのためにも治療方針が本当に最適であるか、結果が最善であるか、それらについて多方面から検証する必要があります。
田淵 先生が今、最も興味を持っている臨床上のテーマはどんなものでしょうか。
山内 加齢黄斑変性の発症メカニズムには興味があります。予測や予防につながるようなものが見いだせないかと考えています。
田淵 ツカザキ病院メディカル・レチナ領域の責任者としての未来像を教えて下さい。
山内 加齢黄斑変性は以前は本当に治療ができない病気でした。2004年にPDTが開始されるまでは有効な治療は全くなく、悪化するのを見ているだけでした。PDTに続いて抗VEGF剤が使えるようになり、加齢黄斑変性は治らないまでもある程度治療可能な病気になりました。加齢黄斑変性は欧米では失明原因のトップということもあり、非常に盛んに研究がされており、現在も治療や診断などで日々進歩しています。まず大事なのは遅れないように最新の知識を取り入れ、患者さんに還元することだと思います。そのうえで、もし可能であれば新しい知見を見出せるようなことがあればいいですね。
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受付は朝8時から夕方5時までですが、散瞳検査等での時間を考慮して、出来るだけ早い時間帯での受診をお勧めします。
セカンドオピニオンにも対応致します。

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