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硝子体注射について

硝子体注射について 解説:永里大佑(ツカザキ病院眼科医長、網膜血管閉塞疾患チーフドクター) 聞き手:田淵

硝子体注射について

田淵 本日は、当科で網膜静脈閉塞症や糖尿病網膜症、加齢黄斑変性やなどの網膜の中心部(黄斑部)に生じる変性疾患を担当していただいている永里大祐先生に、この領域の治療の一つである「硝子体注射」について、分かりやすく解説して頂きます。
永里 眼科の治療では、目薬(点眼薬)や飲み薬(内服薬)をよく用います。しかし、点眼薬だけでは目の奥の病気(眼底疾患)に効果が不十分な場合や、内服薬による全身的な副作用を起こすこともあります。硝子体注射は眼内に直接薬剤を投与することで全身的な副作用のリスクを軽減し、眼内の病変に対してより強く治療効果を引き出せます。
硝子体注射で投与する薬剤としては、血管を縮める抗VEGF薬や、炎症を抑える副腎皮質ステロイド薬などがあります。感染症の場合には抗生剤を用いることもあります。また薬剤ではありませんが、特殊なケースでは気体(ガスや空気)を硝子体腔に注入することもあります。
田淵 永里先生、そもそも「硝子体(しょうしたい)」とは、どのような部位なのでしょうか。
永里 硝子体は眼球内の大部分の体積(全眼球容積のおよそ4/5)を占めており、水晶体と網膜の間で眼球を支えています。もともと無色透明な組織で、角膜や水晶体と同様に網膜まで光を通します。眼球の形態保持だけではなく、眼球を外力から守るクッションのような役割も果たしています。
田淵 さて「目に注射」と聞くと、一般の方にとっては「とんでもなく痛そう。」と感じるに違いないのですが、注射の実際、特に痛みについて教えてください。
永里 注射の前に何回も点眼麻酔をしますので、麻酔が効いている状態では目をわずかに押される感覚くらいで、痛みを訴えられることは滅多にありません。
田淵 それでは注射するお薬の中でも抗VEGF薬について、その薬理作用を説明して頂けますか?
永里 抗VEGF薬とは、VEGF(血管内皮増殖因子)という成分の働きを抑える薬剤です。VEGFは血管を安定化させる役割を担っており、通常でも少なからず眼内に発現しています。
しかし、糖尿病網膜症や網膜静脈閉塞症などの網膜血管が詰まる病気、加齢黄斑変性などの脈絡膜血管に関係した病気ではVEGFがより多く発現しており、眼内に新生血管という余分な血管が発生してしまいます。この新生血管は未熟な構造で、炎症や出血・浮腫などが起こり、視力低下や歪視など目にとって悪影響を及ぼします。
そこで、この抗VEGF薬を眼内に直接投与すると、新生血管の活動性を低下させることができ、それに伴う炎症や浮腫も抑えることができます。現在、保険適応のある抗VEGF薬は3種類(マクジェン、ルセンティス、アイリーア)ありますが、当院では治療効果や副作用等を考慮しながら薬剤を選択しています。
田淵 ちょっと難しい話で、なかなかイメージしにくいところがあるかも知れませんね。注射の効果という面ではいかがでしょうか。1回注射すればそれで治る、というわけじゃないですよね。
永里 治療後1週間くらいから効果が現れます。その後は必要に応じて注射を追加します。1カ月毎に3回、硝子体注射を行い、それから必要に応じて注射を追加する場合もあります。1回、ないし3回で治療が完了することもありますが、2人に1人程度は再発し、追加で抗VEGF薬硝子体注射が必要になります。10回程度施行している患者さんもいらっしゃいますが、稀です。
田淵 注射は、結局のところ生涯続けなければならないと思ってよいのでしょうか。
永里 この治療を行えば、元の病気が完治するわけではありません。ただし、生涯続ける、ということはまずありませんが、2-3年の間、定期的に抗VEGF薬の注射を受ける場合もあります。注射によって、病気をコントロールしながら、根気強く治療し、視機能の維持を目指します。
田淵 そうなると、一生のうちに、大変な回数の注射をしなければならない。大変ですね。
何とか注射の回数を減らす方法はあるのでしょうか。
永里 まずは視力検査、眼底検査、網膜断層検査などを行い、さらに病態および病勢の把握を目的として眼底造影検査(フルオレセイン、インドシアニングリーン)を実施することもあります。それらの検査結果を総合して、診断を確定し、患者さんそれぞれに適した治療計画を立てます。
多くの症例では治療効果を判定しながら2~3ヶ月連続して硝子体注射を行い、再投与基準に則って追加時期の判断を行っています。
しかし、1~2ヶ月毎の頻回投与が必要となる患者さんもおられるので、病気や病態によってはレーザー治療や手術など、その他の治療と組み合わせていく必要があります。担当の医師と相談の上、治療方針を考えてください。
田淵 注射の投与方法にも、いろいろな考え方があり、学術的な理論があるのですね。
科学的な面に加えて、注射する際にかかる費用について教えてください。薬剤費、注射の処置料などありますが。自己負担比率、高額医療費補助なども患者さんにとっては必要な情報ですね。
永里 注射薬自体はとても高額で約12~15万円で、3割負担の患者さんの場合は毎回約4~5万円の自己負担が必要となります。
可能な場合は高額療養費の活用によって医療費の自己負担を軽減することができますが、長期に渡って視力を維持するためにも、無理なく継続的な治療をしていくことが重要だと思います。
田淵 現在、ツカザキ病院眼科では、先生がメディカルレチナと呼ばれる外科的手術では治療できない黄斑部(網膜中心部)疾患を受け持っておられます。
ツカザキ眼科では、医師以外にも視能訓練士さんが専門的な医療チームを形成しているのが特徴ですが、永里先生が考える今後のチームの展望などお聞かせください。
永里 網膜静脈閉塞症を含めた黄斑疾患は直接視力に影響する場合が多く、正確な検査および診断・治療が必要となります。
日々の診療において、我々医療スタッフ同士がコミュニケーションを取り合い、こういった疾患に向き合っています。
しかしながら、治療過程において中心視野が障害され、日常生活に支障が出てくる患者さんもおられます。その場合は当院にてロービジョンケアを受診していただき、残存視機能を有効に活かしていくことをご本人、ご家族に提案しています。
今後も我々医療スタッフで連携し、治療に取り組んでいきたいと考えています。
田淵 ありがとうございました。
硝子体注射、およびその治療でお悩みの方はどうぞご気軽に当科へ受診ください。
診察を希望される方へ
  • 散瞳検査等での時間を考慮して、出来るだけ早い時間帯での受診をお勧めします。
  • 緊急性がない場合については、後日の精密検査となることが通常ですので、複数回の受診となることについてあらかじめご了承ください。
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