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2021.03.30

浄土寺

 母を泣かせてしまいました。

 齢四十を過ぎて古物に目覚め、時間ができるとちょっとした文化財巡りをするのですが、少し前、小野市にある浄土寺の阿弥陀三尊立像(国宝・快慶作)を観て非常に感銘を受けたので、母にも行くよう勧めておりました。

 先日、僕も母にも少し時間ができたので、「今から行ってみよう!」と、それこそ急に思い立って車を飛ばしました。
 境内はあまり見栄えのするところではない(失礼)のですが、阿弥陀堂に入ると、まるで生きているような阿弥陀如来に圧倒される。

「ああ、来てよかった」と思えるところです。

 僕は前回来たときのように、阿弥陀様の周りをくるくる回りながら、蓮台の様子だとか、雲の様子であるとか、角度によって様々に変わる仏の表情を観ながら楽しんでいたのですが、「ここが阿弥陀様と目の合うポイントだよ」と座らせた母が、身じろぎもしません。
 どうしたのだろうと見てみると、母が泣いているのでした。大粒の涙を流しながら。

 「涙が止まらない。止まらない」と言いながら、ハンカチに顔を伏せる母。
 拝観時間も終わりだったので、困惑しながらも母をせかして堂を出ました。

 子供のころから、僕は母をいわゆる「鬼婆」だと思っておりまして、怒られはすれども泣く姿など、ましてや涙を流す姿など見たこともありませんでした。

 帰り道、母が問わず語りに語ってくれました。
不思議なことに、その朝、数年前に他界した祖母の「ちょっとそっちにいくからね」と妙に生々しい声で目が覚めたこと。
阿弥陀様の顔が、一瞬祖母の顔に見えたこと。
そういえば、その朝は、誰かに抱っこされているような、不思議と気持ちいい感覚で目覚めたこと。

「信じているわけじゃない。でもね、ああ、私が死ぬときには、こうやって阿弥陀様に抱かれていくのかなと思ったら、涙が止まらなくなってね…」
「あなたも、今観る阿弥陀様と、齢をとってから観る阿弥陀様では、見え方が違うわよ」

 身内の恥をさらすようですが、母は東京の生まれで、東京の大学に行っていた父と出会い、姫路に来た人です。
 こちらに初めて来たとき、英賀保駅で待ち合わせたそうですが、周りは田んぼばかりで人気がなく、数分おきに電車が来ないことにショックを受け、「ああ、大変なところへ来てしまった」と思ったそうです。50年も前のお話です。

 その後、詳しくは知りませんが実家と喧嘩し、全く東京へは寄り付かなくなっていました。が、数年前、なにかの拍子に打ち解けたとのことで、実に数十年ぶりに里帰りをして、両親と話したそうです。
 「もっと早くに帰っておけばよかった。やっぱり親は親なのね。」
東京から帰ってきた母は、なにか憑き物が落ちたように言いました。

 その1年後に、祖母は亡くなりました。

 阿弥陀像を前に母の胸に去来したものを推し量ることなどできませんが、きっと佳い想いを抱いたのでしょう。
 「次回はオペラグラスをもって行くわよ!阿弥陀様のお顔がはっきりと見えなかったんだもの!」
と張り切っております。

 少し親孝行したような気になりました。

 それにしても900年の時を超えて人の心をつかむ、快慶仏師の力量たるや!

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